アビームコンサルティング株式会社 執行役員プリンシパル戦略ビジネスユニット斎藤岳氏/製造業、情報通信/サービス、小売業/卸売業、金融、総合商社、独立行政法人などの幅広い業界にてコンサルティングに従事。近年は先端デジタルテーマ×戦略のコンサルティングに多く関わる。認定プロフェッショナルビジネスコーチ

 アビームコンサルティングは、「日本企業の人的資本経営取り組み実態調査」の結果を発表した。

〔調査について〕
期間:2022年9月14~16日(インターネット上で実施)/対象:年間売上1000億円以上の日本企業で人事部や経営企画部に所属する399人。回答企業を直近5年間の売上実績の年平均成長率別に3分類し、年平均売上成長率10%以上を「成長企業」、0%以上10%未満を「堅調企業」、0%未満を「マイナス成長企業」と定義した。

 人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」(経済産業省)。企業の価値はこれまでのような有形資産から、帳簿では示せない無形資本が重視される流れとなっており、中でも人材には積極的な投資が求められ、人的資本経営は今、最も重要な経営のあり方になっている。

「人的資本経営」の認知度は9割超も、実践はまだ2割程度

 今回の調査から、「『人的資本経営』という言葉を聞いたことがある」は全体で92.7%と高かったが、「理解している」は38.6%と、認知と理解の間では54.1%の差があることが分かった。

 また、人的資本経営の開示や実践の取り組みの状況については、いずれも現状では「未検討」「情報収集・推進検討中」が半数強を占めている。開示・実践の取り組みについては今後対応したいと考える企業は多いものの、まだ多くがスタートラインにも立っていない状況となっている。

 これを業界別に見ると、人的資本経営の理解度は金融が48.8%と最も高く、次いでインフラ・サービス43.3%、製造32.1%、物流・小売27.7%。

 だが、「人的資本経営の実践の取り組みについて『既に開始している』」のは製造が22.4%、インフラ・サービスが22.2%と、金融や物流・小売よりややリードしている。これは金融では地方銀行など国内市場でのビジネスが主流となっていること、逆に製造やインフラ・サービスは既にグローバルでビジネスを展開している企業が多いことが理由と考えられる。

 また、今回、成長企業は堅調企業やマイナス成長企業に比べ、人的資本経営の理解や開示・実践について一歩先をいっていることが分かった。

 例えば、開示に関しての質問「人的資本経営の開示の取り組みに関して『社内外への開示』まで至っている回答数」では、ISO30414に基づく11領域の中でも「リーダーシップ」「生産性」「スキルと能力」の3領域は、堅調企業やマイナス成長企業と比べて大きく先行している。

 実践に関しては、さらにその差は顕著だ。

 「人的資本経営の実践の取り組みに関して『投資の効果も評価する』まで至っている回答数」という質問では、「ダイバーシティ」に取り組む成長企業が36.0%、「組織の健康や安全・ウェルビーイング」に取り組む成長企業が34.0%と、いずれも堅調企業と比べて15%以上の大幅な差がある。

 このことから、成長企業は外部へのアピールでもある「開示」よりも、企業内部の改革である「実践」をより重要視していると読み取ることができる。