企業を取り巻く社会通念や価値観が大きく変容し、新たなパラダイムを見据えた事業活動が強く求められている。10月6日、お茶の水ソラシティカンファレンスセンターsola city Hallおよびオンラインで開催されたアイ・ティ・アール(以下、ITR)主催の『IT Trend 2022』では「ビジネスパラダイムの変化を見据えたDX戦略」をメインテーマとして、パラダイムシフトに追随するためのDX戦略のあるべき姿、規範とすべきテクノロジー活用の指針がさまざまな観点から示された。

失敗を許容するカルチャーがVUCA時代の前提に

 初めに登壇したITR代表取締役の三浦元裕氏は、2023年以降に注目すべきIT戦略のテーマや将来予測を1枚のシートにまとめた「ITR注目トレンド2023」を示した。

 「未来志向エンタープライズへの変革」「デジタルビジネス創生へ向けた環境構築」「次世代ビジネス基盤へのシフト」といった3つのカテゴリーに、計12のIT戦略テーマと今後の予測、それに伴うキーワードが掲載されている。

 三浦氏は「私たちはこれらの表層ではなく、常に本質を見極める姿勢をもって、分析と提言を続けていきます」と語る。

 続く基調講演は、A会場ではITR取締役でリサーチ統括ディレクター 兼 プリンシパル・アナリストの金谷敏尊氏による『デジタルネイティブ時代のビジネス開発アプローチ』、B会場ではITRチーフ・アナリストのマーク・アインシュタイン氏による『メタバースがもたらす変化といまとるべき取り組み』の講演が行われた。

金谷氏の講演より。VUCAの時代はあらゆる「WHY」に丁寧に答えることが重要になる
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 金谷氏の講演では、昨今の経営パラダイムの変化と日本企業におけるDXの取り組みの現状を振り返りながら、VUCAの時代にビジネスを推進するために必要な価値観や方法論のシフトについて語られた。

 実はDXの成功確度は非常に低い。特に新ビジネス創出を目的とする「プロダクトイノベーション」は、他のDX領域と比べても難易度が高く、ほとんどが失敗に終わるという。

 しかし、多くの日本企業は、成功することを前提としてDX推進を設計してしまっている。「この難易度の高い領域で成果を出すためには、失敗することを前提として、実験や試行をスモールスタートで、複数を並走させて実施し、うまくいったものをピックアップして進めるといったことが必要です」と金谷氏は話す。

 さらに金谷氏は、チャレンジ奨励、デザイン思考/アート思考中心、リーンスタートアップ、アジャイル開発など「デジタルネイティブの価値観」や、内部環境と外部環境の分析結果を掛け合わせる「クロスSWOT」、マトリクス法などのビジネスコンセプト発案のアプローチ、リーンキャンバス、データビジネスにおいて常時顧客の反応を捕捉・分析・反映する「グロースハック戦略」などビジネスプランの策定方法を紹介。

 そして、最後に「Amazonは世界一失敗できる企業だ」というジェフ・ベソスの言葉を引き、「重要なのは、チャレンジする精神、失敗を許容するカルチャーです」と強調した金谷氏。「VUCAの時代には、『命運を賭けた一大プロジェクト』ではなく、小さなトライアルを繰り返して、失敗からの学びを消化していくといった方向性が求められます」として講演を終えた。

カシオの変革事例に見るパラダイムシフト

 続いてゲスト講演者として登壇したのは、カシオ計算機 執行役員 兼 デジタル統轄部長である石附洋徳氏。『Beyond DX~DXを企業のあたりまえの活動に変えていくために~』と題した講演では、まず日本企業のDXの現状に対して「デジタル技術やデータを活用することが目的になり、DXが事業活動に必要なものとして定着していないのではないか」と問題提起した。

 石附氏は、変革はデジタル活用ありきの「手段ドリブン」ではなく、課題と向き合い、解決方法を洗い出した上で最適な手段を選択する「課題ドリブン」であるべきだと説く。また、「変革へのアクションは事業の成果に貢献することで定着していく」と強く示唆する。

 こうしたことを踏まえて、同社は「プロセス」「関係性」「カルチャー」「提供価値」という4つの「変える」を重視して変革を進めてきたという。

 例えば、マーケティング/コミュニケーションプロセスの変革では、まず「『愛着』の獲得」「One-to-One Marketingの実現」という目標を定めた上で、既存プロセスを明らかにして、問題点や解決すべき課題を可視化し、最終的に必要なシステムをプロセスに落とし込んでいったという。

 他にも「関係性」の事例として市場や社会の変化に対応するSCMの変革、「カルチャー」の事例として組織や文化の変革の取り組みを紹介した石附氏。

 最後に「提供価値」の変革事例として、同社の看板ブランドであるG-SHOCKをサービスブランド化した「MY G-SHOCK」を挙げた。これは、カスタマイズした自分だけのオリジナルG-SHOCKをつくることができるというサービスであり、単なる製品から顧客に特別な体験を提供し続ける存在になるという「提供価値の転換」といえる。

 石附氏は「パーパスやビジョンなど企業として大切にしていることを守るために、『変わらないために変わり続ける』ということが必要です」と強く語る。

『IT投資動向調査2023』より。DX推進の組織体制の整備が進む
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 午前最後の講演『『IT投資動向調査2023』速報値から見るIT投資の道標』では、ITRプリンシパル・アナリストの三浦竜樹氏が、ITRが今年8~9月に実施した『IT投資動向調査2023』の速報値から、国内企業のDX実践度スコアとIT予算の変化、2023年度に向けた企業のIT戦略や投資の方向性など、最新動向を解説した。

 2022年度のIT投資は2年連続で上昇し、この傾向は2023年も続く可能性が高い。また、売り上げが伸びている企業はIT投資が多いなど、業績とIT投資の増減傾向に関連性が見られているという。

 三浦氏は「DX推進の成果が得られている企業はまだ少ないものの、DXの位置付けと取り組み状況からは、推進のための組織体制の整備が着実に進展していることが見て取れます」と総括する(この講演の詳細は『「IT投資動向調査2023」速報値から見るIT投資の最新状況』。11月に発刊される『国内IT投資動向調査報告書2023』では、さらに業種、従業員規模、売上規模など多彩な軸による集計や21年間の経年変化から見た動向などを知ることができる)