次世代の金融シナリオがすでに始まっている。米GAFAMに代表される「ビッグテック」が台頭する一方で、新興フィンテック企業の影響力はますます強まりつつあり、日本国内ではソフトバンクの躍進がひときわ目立つ。多くの著書を通じて将来の金融シナリオを予測してきた立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏が、金融におけるビッグテックの最新動向をもとに、新たな競争の条件と、既存金融機関に求められるグランドデザインを考察する。

※本コンテンツは、2022年8月23日に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回 金融DXフォーラム」の基調講演「ビッグテックがもたらす金融DX戦略と既存金融機関に求められるグランドデザイン」の内容を採録したものです。

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Amazon、Appleが狙う覇権獲得とは。ビッグテックの最新金融ビジネス動向

 田中道昭氏は2019年に著書『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP)で、「デジタルによって改善された銀行」「新たな銀行」「既存銀行とフィンテック企業との分業」「既存銀行の格下げ」「銀行の破壊」など、法人取引と個人取引を峻別しながら、5つの金融の近未来シナリオを予測した。3年後の今、予測は現実になりつつある。中でも目覚ましいのが「新たな銀行」としてのビッグテックの台頭だ。
 
 その1つ目の事例として、田中氏はAmazonが展開するレジレスコンビニの「Amazon GO」を挙げる。店舗で欲しいものを手に取り退店するだけで決済が完了するという高い利便性を誇り、「便利においしいものを食べたい」という消費者のニーズに応えながら、買い物・支払いをしていることすら感じさせない。

 アマゾンでは、Eコマースの1-Click、音声認識アシストのAlexa、そしてAmazon GOも決済手段であると位置づけている。最新のサービス「Amazon One」は、手をかざすだけで決済が終わるというものだ。アマゾンは生活全般をカバーするプラットフォームとエコシステムを構築しつつある。「決済の利便性が高まるほど、買い物の売り上げが上がるという見方もあり、アマゾンは決済手段での覇権獲得を狙っているといえます」と田中氏は分析する。

 2つ目の事例は、Apple。金融事業の方向性として注目したいのは、Apple Card、Apple Pay、 Apple Oneの三位一体のビジネスだ。アップルカードは日本では未リリースだが、同社が非常に力を入れている分野である。アップルペイは、日本国内でも交通系ICのSuicaとセットで広まっており、BNPL(後払い)も追加されている。そしてアップルワンは、Music、TV、クラウドなどをオールインワンで提供するサブスクリプションサービスであり、これをもって「アップルはサービス企業へ転換した」と見られている。

 かつて携帯電話で覇権を握っていたノキアはアップルに市場シェアを奪われたが、それはデバイスだけではなく、エコシステム全体によるものだった。今回もアップルが狙うのは、「生活サービス全般でのエコシステムの覇権を握ること」だ。すでにアップルウォッチにはECG(Electrocardiogram:心電図)機能が搭載され、ヘルスケアサービスに乗り出している。さらに田中氏は「遅くとも2027年までには、完全自動運転ベースのアップルカーが、アップルワンの傘下にぶら下がってくるのでは」と予測する。

 そして見逃せないのは、アップルの信用力だ。「金融取引も医療データも委ねられる、信頼できる企業であることが、アップルが金融プレイヤーとして高く評価される理由の1つだと考えられます」と田中氏は示唆する。