昨今の企業経営において、データやAIの活用はとても重要な要素となっているが、実際は多くの企業がデータをうまく活用できていない状況にある。2022年1月に『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』(ダイヤモンド社)を出版した滋賀大学データサイエンス学部教授の河本薫氏は、この現状について「分析能力や保有データの優劣よりも、仕事のやり方に原因がある」と語る。データ分析やAIを実務に生かすためにはどのようなプロセスをたどればよいのか。河本氏が実例を交えて解説する。

※本コンテンツは、2022年6月28日(火)に開催されたJBpress/JDIR主催「第13回DXフォーラム」の基調講演1「~データ分析・AIを実務に活かす~データドリブン思考」の内容を採録したものです。

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意思決定プロセスこそデータドリブン思考の要

 DXの推進に伴って近年多くの企業で取り入れ始めているのが、データ分析やAIを活用することで課題解決の意思決定を行う「データドリブン」という手法だ。これまで、意思決定の際に重要視されてきたのは、現場での経験や勘。これらも確かに重要ではあるが、経験や勘に頼った意思決定は外れてしまうこともままあり、決して最善の手段とはいえない部分があった。データ分析やAIの力によってより確実性を増した意思決定が可能になるデータドリブンは、これからの企業にとって必要不可欠な要素になるだろう。

 しかしながら、データドリブンを導入することは簡単ではない。滋賀大学データサイエンス学部教授の河本薫氏のもとには、さまざまな悩みや相談が舞い込んでいる。

「データサイエンティストを育てたが成果を出してくれない。データ基盤や分析ツールに多額の投資をしたが見合った効果がついてこない。AI活用についてPoC(=Proof of Concept:概念実証)までは進むが現場導入につながらない。これらの失敗の大元には、データやAIが直接的にビジネス課題を解決してくれるという間違った考え方があります」

「データやAIはあくまで手段に過ぎず、データやAIを活用して何かを改善することが、ビジネス課題の解決につながる」と河本氏は言う。ここでいう「何か」を意識できていないことが、多くの企業にはできていないのだ。そこでヒントとなるのが、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの言葉である。

「組織とは、意思決定を生産する工場である」

 企業は意思決定の工場であり、さまざまな意思決定を製造した結果として、製品やサービスが生まれたり、コストや利益が発生する。それは逆に考えれば、品質が悪い、顧客満足度が低い、利益が出ないといったさまざまな問題は、意思決定が悪いともいえる。さらに、遡れば、意思決定の生産方法すなわち「意思決定プロセス」が悪いから、問題が生じていると考えられるのである。

「経験や勘に頼った意思決定の生産方法を、データやAIを用いた合理的な意思決定プロセスに改めることで、ビジネスの課題を解決する。これが『データ・AIでビジネス課題を解決すること』と私は定義しています」

 河本氏の提唱する「データドリブン思考」は、まずビジネスの課題を設定し、次にそれを解決するために意思決定プロセスをデータドリブンに設計し、そして、そのデータドリブンな意思決定プロセスを実現するためにデータやAIによって解いていく。このフローこそデータドリブン思考そのものであり、現場業務から経営判断に至るまで、広く応用が可能だと語る。

「データドリブン思考をあらゆる企業活動に浸透させることこそが、『データドリブン経営』だと私は考えています」