セゾン自動車火災保険の佐藤史朗社長

 保険業界というと歴史の長い企業が多く、その分、変化に時間がかかる企業が多いという印象がある。そうした業界でも今、急速にDXが進んでいる。DXにより、保険という商品、保険会社の役割はどう変わるのか、セゾン自動車火災保険の佐藤史朗社長に聞いた。

保険業界におけるDXの現状と位置付け

 普通に生活していると、なかなか「保険」を意識することは少ない。たいてい、生命保険、医療保険、損害保険などそれぞれ1つは加入しているものの、10年、20年と中身を振り返ることはない。いざ何かがあったときの保障なので、保険に縁がないのは幸いなのだという人もいるだろう。

 しかし、自分が入っている保険で何がカバーできて、何がカバーできないのか知っておくことは必要だ。消費者側からの視点だが、保険という商品は利用者との間の距離が非常に離れている気がしてならない。これは仕方のないことだが、保険会社はリスクを商品化するのでどこも同じような商品になってしまう。端的に言うと、顧客の個々の事情に応じたニーズを反映することはできていないのだ。消費者からしても、モノではない保険は商品として非常に難しい。本当に必要な補償と自分が支払う保険料が見合っているのか、何をポイントに選択すればいいのか、そうした情報が消費者に知識として伝わっていない。

 こうした状況に対して、佐藤氏は、「これまでお客さまが本当に欲しいものは何かということを、保険会社はあまり考えずに来てしまった」と言う。

 例えば、自動車保険であれば、自動車で事故を起こして相手に損害を与えたら、それを補償する必要がある。多額の賠償金が発生するとそれによって自分の生活設計が狂ってしまいかねない。火災保険にしても、住宅ローンを組んで建てた家が燃えてしまったら、なかなか自力では再建できない。保険とはそういうリスクに対して補償を提供するものであり、それによって生活者の生活だったり、企業の事業活動を安定化させていくためのものだ。

 しかし、本当にそれだけでいいのか。本来、もっと個別に、それぞれの事情に応じて保険会社に何か求めるものがあるのではないか。保険会社はそういう顧客のニーズを分かっていないと。

 今、保険業界もDXの取り組みを進めている。業務プロセスの効率化を進め、その先に新たなビジネスを生み出す事業創出のためのDXがあるという位置付けで、まずは生産性を上げていくというところで進んでいるという。

 セゾン自動車火災保険でもRPAによる業務の自動化に取り組んでいる。顧客対応のところでは、例えば、顧客対応のところでは、試算サイト・チャットボットなどウェブを通した効率化を進めている。そして、CRMの導入による顧客情報の一元化によって、顧客対応の品質向上を図るという取り組みも始まっている。これまでは担当者が不在で別の者が対応する際、確認等に時間を要していたものが、担当者が変わっても、引き継ぎなしに同じ対応ができるようになることで、着実に生産性向上につながるものと見ている。

 また、現在、検討を進めているのが音声データのテキスト化だ。例えば、顧客対応部門のコールセンターや保険金支払部門における顧客とのやりとり(音声データ)をテキスト化し、自動的に要約することで後処理を効率的にしようということだ。

 さらに、保険業界で事故処理の部分で行われているのが、ドライブレコーダーによる事故発生の通知だ。ネットにつながったドライブレコーダーから事故発生時に自動で保険会社に通知される。あるいは、事故の記録から過失割合の判定を行うなど、これまでできなかったことがデジタル技術によって可能になってきている。

 だが、本当にこれから変えていくべきは顧客とのコミュニケーションであり、そこにデジタルを活用することで、いずれは「本当に顧客が求めているもの」をつかめるのではないかと佐藤氏は捉えている。

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佐藤 お客さまが本当に安心して生活していけるために保険会社ができること、やるべきことはもっとあると思っています。ただ単に保険金を払って終わりではなく、デジタルによってお客さまとつながることでいろいろなニーズを見つけることができる。それにより、おそらく商品の差別化ができていくと考えています。

 今、ECのようなB2Cのビジネスでは、デジタルの技術で顧客のニーズを捉え、本当に必要とされるものを提供するということがある程度成功しています。モノを売るという意味では保険会社も同じではあるのですが、やはり保険という商品が非常に分かりにくい。その部分で、「あそこの会社に任せておけば、いろいろな困ったときに解決策やソリューションを提供してくれる」というように、いかに安心感を与えられるかが大きな鍵となると思います。そうしたことも含めて、DXでいずれできるようになるはずです。保険会社として、お客さま対応の品質をどうやって上げていくか。これは、保険会社がこれからやっていかないといけない重要なところだと考えています。

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