オリックス銀行 取締役兼専務執行役員 寺元寛治さん

 オリックス銀行のシステムのクラウド化率は現在58%。50%を超えている銀行は全国で10行にも満たないとされる。既に銀行の心臓部ともいわれる勘定系システムのクラウド化も進めており、来年3月にはクラウド化率は78%に達する見込みだ。クラウド化に慎重な銀行業界にあって、オリックス銀行はなぜ、クラウド化の推進に積極的なのか。そして、IT化、デジタル化の推進によって、CX(顧客経験)、EX(従業員経験)をどのように向上させようとしているのだろうか。

新たな収益源を作るために逆転の発想が生まれた

 オリックス銀行の前身は山一証券子会社の山一信託銀行。山一証券の自主廃業をきっかけに、1998年にオリックスグループ入りをした。

 ただ、山一信託銀行は投資信託の受託業務を主力としていたため、店舗やATMなどを持たない銀行だった。新たな収益源を作るためにさまざまな議論が交わされ、店舗やATMを持たないことを強みとする逆転の発想が生まれた。結果、「郵送だけで完結する日本初の通販型定期預金のダイレクト預金」「コストを抑えるために店舗網、ATM、口座決済機能を持たない」「ビジネスの成長に合わせて預金を獲得するビジネスモデル」「投資用不動産ローン市場を狙うニッチ戦略(貸出金の約8割を投資用不動産ローンが占めている)」など、独特のスタイルの銀行に進化していった。

 ちなみに東京商工リサーチの調査によれば、2022年3月期の預貸率(貸出金÷預金)は、国内106銀行の平均が61.9%(2022年3月期)なのに対して、オリックス銀行は97.2%と圧倒的に高い。経費率(営業経費÷業務粗利益)は、ニッキンレポートによれば、全国銀行109行の平均64.1%(2022年3月期)に対して42.3%と低い。このように、コストを低く抑えながら、預金を主力の投資用不動産ローンの貸出に効率良く回すことで、預金金利を高くできる。

 こうした個性的な経営が顧客から支持をされ、構造不況業種といわれる銀行業界にあって13期連続で増益、9期連続で最高益更新という結果をもたらした。

 この強みを生かし、デジタル化推進によって、CXとEXを向上させようとしているわけだ。

一体化していく経営とITの概念

 具体的には、どのような手順でIT化、デジタル化を進めていくのだろうか。

「金融庁も言っていますが、昔はIT戦略という概念と経営戦略という概念は、別々のものと捉えられていましたが、今は両方の概念を一体化していく必要があり、これをITガバナンスの枠組みとして具体化していくことが求められています」(寺元さん)

 CXやEXをはじめ、経営の根幹にかかわるようなレベルのIT化、デジタル化に取り組むのだから、ITガバナンスの枠組みの中で、当該案件の戦略的意義、費用対効果および優先順位付けをしっかり見ていくことが必要だ。また、推進には、どのようにIT部門の要員やITベンダー側のリソース配分をしていくかも考えなくてはならない。

 だから、経営陣が全体像を理解し、経営戦略を踏まえたIT戦略の遂行を行っていくことが必要になってきたわけだ。オリックス銀行では、ITダッシュボードというIT・デジタルの状況を可視化したレポートを四半期ごとに役員会に報告することで経営陣がIT化、デジタル化の推進状況を理解し、継続的にコミットメントしていく体制を構築している。

 オリックス銀行ではIT化、デジタル化を進めるシステム基盤の構築は、オンプレミス(自社内でサーバーを設置し、システムを自社で構築)から順次、クラウド化していくことを選び、2017年ごろからAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を軸に推進していった。