日本郵政 執行役・グループCDOで、JPデジタル CEOの飯田恭久氏

機動的に施策を行えるようDX推進に特化した子会社を設立

 創業以来、151年にわたり郵便という社会インフラを担ってきた日本郵政グループ。2021年5月に発表した中期経営計画では「リアルとデジタルの融合」を掲げるなど、デジタルによる変革にも積極的に取り組んでいる。変革をリードするのは、2021年に日本郵政 執行役・グループCDOに就任した飯田恭久氏だ。インターネットビジネスや海外経験も豊富で、入社数カ月でJPデジタルを設立。代表取締役CEOに就任するなど手腕を発揮している飯田氏に、日本郵政グループのDXについて聞いた。

――ご経歴を教えてください。

飯田 大学卒業後、アメリカに留学してマーケティングを専攻していました。その後はジレットに入社し、8年間勤めた後、ウォルト・ディズニー社に転職をしました。その後、日本に参入したばかりのダイソンに転職し、代表取締役社長として今日のダイソンの基礎作りに努めました。

 ご縁があって、楽天の三木谷(浩史)社長にお声掛けいただきまして。楽天をグローバルカンパニーにしたいというお話を伺い、私のそれまでの経験がお役に立つのではないかと楽天に入社しました。楽天には15年間在籍していましたが、11年間はアメリカを拠点に仕事をしていたので、初めて日本の企業勤務にもかかわらず、大半を海外で過ごすことになり、海外のキャリア経験がさらに増えました。

 2021年3月、日本郵政と楽天グループの資本提携が行われ、さまざまな協業を行っていこうという動きがありました。その一環として、日本郵政のDXを推進する人材を楽天グループから選出してほしいという依頼があり、私がご指名を受けて、2021年4月に日本郵政に転籍しました。

――日本郵政グループがDXに取り組むようになったきっかけを教えてください。

飯田 日本郵政グループは郵便という社会インフラを担っていますので、民営化されたといえども、まだまだ公共性の強い組織ですので、新しいことにチャレンジすることがあまり得意でないという印象を受けます。時代とともに民間の企業が積極的にデジタル技術を取り入れて、より利便性の高いサービスをお客さまに提供している中、日本郵政グループはかなり出遅れてしまいました。

 私は15年にわたってインターネットのビジネスに携わり、海外ではデジタル技術を積極的に活用している企業と触れ合ってきました。日本郵政に入社した当初、社内業務とデジタルが切り離されて考えられていることに非常に驚き、まずはその意識を変えなければいけないと思いました。

――具体的に、どのような施策を行ったのでしょうか。

飯田 2020年10月にDX推進室が組成されたのですが、これは日本郵政の内部の人間が準備室的にスタートしたものです。翌年、私が日本郵政に入社したのを機に本格的にDX推進が始動したのですが、世の中のデジタル技術はものすごいスピードで進化しているので、とにかく早くDXを推進する必要があります。そのためには、機動的に活動できる組織を作るのが最善ではないかと思ったので、2021年7月にJPデジタルというDX推進に特化した子会社を設立しました。

 約150年という日本郵政グループの歴史の中で、外部から来た人間が3カ月で会社を設立するといったことは恐らくなかったのではないでしょうか。そのぐらいのスピードで進まなければいけない。そして、自分たちの力で変革を起こす必要があるのだというメッセージになっていればいいなと思います。

JPデジタルのCredo
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――設立当初は、どのようなメンバーで構成されていたのですか。

飯田 日本郵政グループから出向という形で、20人ほどでスタートしました。最初のオフィスは、小さな会議室程度のスペースで、窓もないような部屋でした。それは、あえてスタートアップが起業するような環境にして、ゼロからのスタートなのだという意識をメンバーに持ってもらうための演出でもありました。ただし、われわれの活動をどんどん大きくして、立派なオフィスに移ることを見据えて。実際に、1年後には広いオフィスに移ることができて、人員も60人弱まで増えています。さらに、パートナー企業の方たちや出向で来ていただいている方たちを含めると約200人体制になっており、リソースとしては1年で約10倍になりました。

――JPデジタルの社員は、どのような基準で選出されているのですか。

飯田 おかげさまでこの1年でJPデジタルの認知度が上がり、「JPデジタルで仕事をしたい」と手を挙げてくれる若手社員が増えました。私は未来に向けて新たな変革を起こすための種まきと、それを育てて花を咲かせることが大切だと思うので、やる気があって志の高い若手社員が集まってくれたことは、とてもうれしいですね。

 日本郵政グループのような大きな組織になると、トップのリーダーシップやサポートももちろん大事ですが、DXをはじめとする変革を起こすということに関しては、若い社員たちが自ら動いていくことが重要で、そうじゃないと変わっていかないと思うのです。日本郵政に入社すると郵便局での研修を必ず受けますから、若手社員は今の郵便局の仕事や、郵便局にいらっしゃるお客さまのことを一番よく知っているわけです。そういう社員たちと未来に向けての郵便局の在り方を考え、企画して実装するという流れを大事にしています。