株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 代表取締役 副社長 執行役員 藤原遠氏

昨今、多くの企業が「サステナビリティ」を軸に据えた経営のあり方を模索している。何を拠り所にすればよいか迷う企業も少なくない中、「サステナビリティ=共生を持続させること」と捉え、そこに「イノベーション」を掛け合わせる視点『サステナベーション』が一つの解を提示している。日本企業は自らが本来持つ強みをヒントに、どのような戦略を描くべきか。「サステナベーション sustainability × innovation ――多様性時代における企業の羅針盤」(日本経済新聞出版)の著者であり、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ代表取締役副社長 執行役員 藤原遠氏に話を聞いた。

時代は「Business with Sustainability」へ

――まず初めに「サステナベーション」とはどういった概念なのか、改めてお聞かせいただけますでしょうか。

藤原遠氏(以下、藤原氏) 「サステナベーション」とは、「サステナビリティ」と「イノベーション」を掛け合わせた造語です。私が社内の若手メンバーとディスカッションしていたときに生まれました。サステナビリティ(持続可能性)の意味を広く「社会そのものを持続させていく」と捉えると、その源流には「共生」という概念があると考えています。この「共生」を実現させる取り組みや、実現に必要な技術を生み出すことが、結果としてサステナビリティにつながるのではないでしょうか。

 サステナビリティというと、静的で変化しないものという印象を受けるかもしれません。しかし、決してそうではなく、時代に合わせてその形を変化し続けることで初めて実現されるものです。例えば、自転車は漕ぎ続けるからまっすぐに進めるのであって、漕ぐことを止めた瞬間に倒れてしまいます。サステナビリティも同じ原理です。

 ここで自転車を動かし続けるエンジンになるのが「イノベーション」と考えています。企業がサステナビリティとイノベーションの両輪を回していくことこそが、社会の豊かな発展に必要ではないでしょうか。

――ご著書「サステナベーション sustainability × innovation ――多様性時代における企業の羅針盤」の刊行から約2年が経ちました。日本企業のサステナビリティに対する取り組みに関して、変化の傾向などあれば教えてください。

藤原氏 サステナビリティやSDGsという言葉が広がる前から、CSRやESGは企業経営の重要なテーマとして掲げられていました。しかしながら、本業のビジネスとは直接関係ない独立した形で行われてきたケースも多かったかもしれません。

 最近では書籍の刊行当時と比べて、より中長期的で、より広い取り組みが求められています。イメージとしては、「Business and Sustainability」から「Business with Sustainability」へと変化してきた印象です。自分たちの「事業そのものを通してサステナビリティを実現する」という方向へ、機運が変わってきています。

重要課題をブレイクダウンし、サステナビリティ視点を事業に組み込む

――日本企業が本業にサステナビリティを組み込んでいくためには、どのような工夫が求められるのでしょうか。

藤原氏 まずはマテリアリティ(重要課題)を洗い出し、自社の事業の中で捉え直すことから始めてはいかがでしょうか。新規事業を起こさなくても、既存事業をこれまでとは異なる切り口で捉えることによって、新たな事業価値を見出すことができると考えています。

 また、複雑な社会課題を一企業単独の取り組みで解決するのは難しいかもしれません。だからこそ、さまざまな組織とつながりながら、一緒に解決する道を探っていくことが必要だと考えています。この、お互いにつながる、つまり、共生といった思想も重要ではないでしょうか。

 当社のめざすサステナビリティ経営では、お客様とともにサステナブルな社会の実現を目指していることから、「お客様の事業成長」を大きなテーマに設定し、そのことを通して「地球環境への貢献」や「社会課題の解決」を実現する、という画を描いています。これらをさらにブレイクダウンして、マテリアリティに落とし込みました。

 例えば、「お客様の事業成長」では、「Trusted Value Chain」「Smart X Co-innovation」、「地球環境への貢献」では、「Carbon Neutral」「Circular Economy」。「社会課題の解決」では、「Human rights & DEI」「Community Engagement」などをマテリアリティに設定し、お客様とともに取り組みを行っています。

NTTデータ公式サイト(https://www.nttdata.com/jp/ja/sustainability/)より引用
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――実際の取り組み事例をご紹介いただけますか。

藤原氏 「Carbon Neutral」における三菱重工業様との取り組みをご紹介します。三菱重工業様が提供するGHG(温室効果ガス)排出量を可視化するAIソリューション「ENERGY CLOUD」を活用したグリーンコンサルティングサービスを提供予定です。そのひとつとして、産業用自家発電を併設しているプラントにおいて、エネルギー利用を最適化するとともに、それによって生まれた余剰電力の活用を支援するサービスの提供に向けた取り組みを進めています。これまで余剰電力は温水利用などの用途に限られていましたが、このサービスにより余剰電力量と需要の予測を実現することで、余剰電力を第三者に供給するなど新たな収益機会を獲得することも可能です。さらにはCO2排出量の削減につなげ、カーボンニュートラルへの貢献も可能となります。

 次に「Community Engagement」についての取り組みとして、地域の災害対策本部に「D-Resilio®」というデジタル防災プラットフォームをご提供しています。気象災害リスクモニタリングシステム「HalexForesight! ®」、災害情報をリアルタイムで共有するシステム「EYE-BOUSAI®」、避難指示や安全情報を広く地域住民に迅速かつ効率的に提供する「Lアラート」など、当社が持つさまざまな防災ソリューションを集約して提供することで、行政やインフラ企業、医療機関などの災害対策時に求められる関係機関間でのリアルタイムでの情報連携を実現します。それにより住民の安全を迅速に確保するとともに一刻も早い復旧ができるように支援するものです。

 これまでの災害対策本部のイメージは、ヘルメットを被った方々が白板に向かって話し合っているような形だったはずです。しかし、今ではデジタル活用でそれがどんどん高度化しており、デジタル上の情報の活用は不可欠となっています。こうした取り組みで住民の皆様の安全安心を高めていくことにより、「Community Engagement」に寄与していきます。

若手のみならず、ミドル層以上の意識も変わり始めた

――サステナビリティに対する考え方・捉え方は世代により大きな違いがあると思います。企業はその違いをどう認識し、自社の経営方針に反映すべきでしょうか。

藤原氏 ミレニアル世代やZ世代は、サステナビリティに対する感度が非常に高いといわれていますが、若手メンバーと話していると、本気でそう考えているのだと、ひしひしと感じます。

 若い世代の方々は、自分が取り組んでいる仕事に対して、「社会的な意義があるかどうか」「将来的に社会課題の解決につながるのかどうか」を強く意識し、そうではない仕事を続けたくないと感じる人たちも出てきています。その点において、サステナビリティは企業側が選ばれるための一つの要素になってきたと認識すべきかと思います。

 ただ、サステナビリティを推進しよう、と言うのは簡単ですが、実際に事業をドライブしているミドル層以上と、高い社会的意義を求める若手の間には、意識のギャップはどうしても生まれてしまうものです。当社も例外ではありません。そのため、このギャップを埋める取り組みとして、若い世代に一定の権限や責任を持たせ、事業責任を持つミドル層と一緒になって仕事を進めるための仕掛けをつくっています。まだ道半ばですが、社内外からの要請が高まる中で、ミドル層以上の意識も変わってきているように思います。

――ご著書の中では日本の大企業がサステナベーションを実践する上で重要なポイントとして、「これまでイノベーションを起こしてきた過去の技術の活用」を提示されていました。実際に、長年培ってきた技術に別の角度から光を当てることで、新たな価値を生み出した事例はありますでしょうか。

藤原氏 JVCケンウッド様の事例が象徴的です。同社はDVDやBlu-rayディスクに用いる「光ピックアップ」という技術をお持ちですが、ストリーミングの時代が到来し、DVDやBlu-rayの需要は縮小傾向にあります。そのような状況の中、「光ピックアップ」技術を活用して、がんの転移に関与している「エクソソーム」という微粒子を高精度に検出できる技術を開発されました。

 今まではディスクの情報を取り出すことに使っていた技術を、がんの早期発見という全く別の目的に転用できる。これは既存の技術を使って新たな価値を生み出し、社会貢献につながっている好例です。同社の会長(当時)はもともと社外から来られた方で、自社の技術資産を別の分野でも活用するのだと、いろいろな部署を鼓舞していたそうです。経営層のこのような意識も、新たな価値を生み出すためには重要です。

社会課題を起点に発想することで、過去の技術も輝く

――外部からの客観的な視点を持つと見えることが、内部からの視点だけではどうしても見つけにくいように感じます。日本の大企業が新たなイノベーションを生み出すためには、どのように既存技術に光を当てていくとよいのでしょうか。

藤原氏 「この技術を何かに使えないかな?」と技術起点で考えるとおそらくアイデアは出てこないでしょう。そうではなく、世の中にある課題から、自分たちの手持ちの技術の中で使えるものはないかという視点で考えること。つまり「課題起点の発想」が求められます。

――大企業と比べると予算も限られる中小企業や、「自分の仕事にイノベーションは関係ない」と捉えている現場の方々が、「サステナベーション」の意識を持つためにはどのような工夫が考えられますか。

藤原氏 提供できるサービスの規模にとらわれず、社会課題の解決に役立つという実感を持つことができると良いのではないでしょうか。例えば、当社が防災システムを提供している山形県酒田市の例が挙げられます。ITリテラシーが決して高くない高齢者の方々に対して、災害時にどのように行動や避難を促していくのか。どの経路をどの手法で提示するのか、といったことを地場の中小企業様と一緒に考えながら進めています。

 一つひとつのツールや手法や情報は、その地域の小さな事業者様が担っているものですが、それらを組み合わせることによって社会全体の課題解決につながる。資産や人材の制約があったとしても、事業を通して社会課題につながるのだという小さな成功体験を積み重ねることが重要だと思います。

――サステナベーションの実現を志す日本企業に向けて、メッセージをお願いいたします。

藤原氏 日本人は、短期的な利益よりも中長期的な視点で物事を考えること、そして世の中の役に立つことに目を向けられる国民だと考えています。例えば昔から「三方良し」という考え方がありましたし、「共生」という言葉もさまざまなシーンで受け入れられてきました。そういったことは、日本から国際社会に対してもっと発信できるのではないかと期待しています。

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