日立造船株式会社 常務執行役員 ICT推進本部長の橋爪宗信氏

基幹システムのデジタル化により業務全体を刷新

 1881年の創業以来、創業者・E.H.ハンターの「挑戦の精神」を受け継ぎ、社会問題の解決に貢献してきた日立造船。近年はDXにも積極的に取り組んでおり、2022年には経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定された。2018年、DX推進の加速を使命にジョブチェンジしてきたのが、常務執行役員 ICT推進本部長の橋爪宗信氏だ。デジタルのスペシャリストである橋爪氏に、日立造船のDXへの取り組みを聞いた。

――ご経歴を教えてください。

橋爪 大学は経済学部で文系でしたが、もともと数学が得意でコンピューターが大好きだったので、プログラマーやSE職に就きたいと考えていました。当時、文系でもそのような業務に携わることが可能なNTTに就職しました。入社した年にNTTデータ通信(現・NTTデータ)へと分社化され、主に法人系のシステムやクラウドサービスの開発などに携わった後、公共社会基盤分野の技術統括をしていました。

 日立造船はモノづくりやエンジニアリングに強みのある企業と認知されていますが、今後はデジタルも事業の強みにしていくことが必要で、その実現のためにさまざまな取り組みが必須となります。そのためにITの専門家として2018年7月に私がジョインしました。

――日立造船がDXに取り組むようになったきっかけを教えてください。

橋爪 当社はごみ焼却発電施設をはじめとする環境分野の施設や、橋梁などの社会インフラ分野、半導体や食品などの産業機械分野の製品を作り、お納めするという事業がメインです。売り切りが主体の事業構造ですが、アフターサービスや運転などの事業も強化したいと考えています。

 そこで、現行の事業にサービスやソリューションといったものを掛け合わせることによって、さらにお客さまへの付加価値を提供していくことを基本方針として打ち出し、2020年に発表した中期経営計画「Forward 22」に盛り込みました。これは、2022年度を最終とする3年間で収益力の強化を推進し、確実に成果を上げることを目標としています。

――DX推進のステップは設定したのでしょうか。

橋爪 特に設定したわけではありませんが、結果的にステップに沿って進めることになりました。最初に取り組んだのは、社内の業務をデジタルトランスフォーメーションする企業DXです。働き方や職場環境、生産システムといった企業の中の仕組みをデジタル化するというものです。

 最初に行ったのは、業務のベースとなる基幹システムのデジタル化です。当社では2001年以降、Oracle EBSというERPパッケージを用いていましたが、2018年10月にSAP S/4HANAへと切り替えるとともに、100個ほどあった周辺システムを半分以下に整理して、業務全体を刷新しました。

 次に行ったのが、事業DXのためのインフラ整備です。従来、事業部門相互の交流が無いため、設備計画や導入は個別に実施してきました。そこで、事業に比例した“×n”ではなく、共通化することで“÷n”とするために全社共有のIoT基盤を開発しました。それが昨年の10月から正式にサービスを開始した「EVOLIoT」で、EVOLUTION+IoTを掛け合わせたネーミングになっています。Amazonのクラウドサービス上に構築されグローバルにも提供できますので、各事業の機械や設備のデジタル化に向けて、このIoT基盤の活用を推進しています。

 こうして、ITにおける業務と事業の仕掛けができました。そのプラットフォーム上でデータサイエンティストが活動したり、AIが動いたりするわけですが、次に必要なのは人材です。私はデジタルの専門家ですし、ICT推進本部に所属しているのは100人弱と少人数ですが、できるだけ内製化を高めることによって技術力の向上に努めています。そのため、DXの“D”に関しての不安はありません。

 その一方で課題となるのは、DXの“X”の方です。当社はエンドユーザーに接することがほとんどありません。そこで、お客さまやその先のユーザー、社会を意識しながらトランスフォームしていく発想力を付けるために、今年からDX人材の育成施策を始めました。その一つが、2月にスタートしたDXリーダー研修です。

――DXリーダー研修は、どのような内容ですか。

橋爪 私は前職でUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)といった人間中心設計などを推進していました。DXリーダー研修では、最初にデザインシンキングを学んでもらいました。各事業に即したトランスフォーメーションのネタ探しやアイデア出しから、事業計画を練るところまでやってもらい、今年の11月ごろに予定している報告会で発表していただく予定です。その中に良いアイデアがあれば、そのまま開発テーマとして次のステップに進めるなど、新たな事業に結び付く可能性があります。

 “X”を思い付くためにデザインシンキングが有効なのではないかという仮説から、DXリーダー研修を検討・企画してきましたが、役員に対しても理解と支援をしていただけるよう、最初に役員層に向けた講演を行いました。また、DXリーダー研修と並行してDX推進コミュニティーを立ち上げています。これは、Microsoft Teamsを軸としたもので、DXリーダー研修の受講者(および修了者)のほか、DX推進責任者を含む事業側の人たち、そして、われわれICT推進本部や研究所、IoTのデバイス側の開発者といったメンバーで構成されています。

 このDX推進コミュニティーでは“D側”の人たちと、“X側”の人たちが集まり、そこでアイデアの創出や具体化に向けたコミュニケーションを図り、一丸となって社内で共通化できる取り組みを進めていくことを狙いとしています。