物流業界は、ドライバー不足や他業界の進出、サステナビリティへの対応といったさまざまな課題にさらされており、業界を取り巻く環境は厳しさを増している。2022年1月にホールディングス体制へ移行したNIPPON EXPRESSホールディングスは、これらの課題を解決するために、DXによる物流変革を推し進めている。本稿では、同社執行役員で、DX推進部 サステナビリティ推進部担当 兼 DX推進部長の海野昭良氏が、同社のDXの取り組みと物流業界の変革に向けた展望を語る。

※本コンテンツは、2022年4月26日に開催されたJBpress/JDIRSS主催「第1回 物流イノベーションフォーラム」の特別講演Ⅱ「新生NIPPON EXPRESSがDXで目指す未来の物流~サイバーとフィジカルの両輪を強みに、バックキャストから物流を変革する~」の内容を採録したものです。

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グローバル市場での存在感を高めるべく、ホールディングス制へと移行

 日本における物流業界最大手である日本通運は、各事業会社の価値の最大化を図るべく組織体制の変革も進めており、現在は経営戦略本部の傘下にDX推進部を置いている。

 このホールディングス制への移行は、日本通運創立以来の大きな変革であり、それに伴ってグループブランドも、これまでの丸通マークから「NIPPON EXPRESS」を短縮した「NX」のロゴへと変更した。この新ブランドの下、同社は新たな体制でビジネスを拡大していく意向だ。

 NXHDの年間売上高は2019年3月期に2兆円を突破し、その後も順調に成長を続けている。営業利益も堅調に推移しており、2023年までに年間売上高2兆4000億円、営業利益率4%の達成を目標に掲げ、グローバルに事業を展開しているところだ。セグメント別の売上高構成比は、日本での売り上げが58.3%、海外での売り上げが南アジア、オセアニア、東アジア、欧州、米州を合わせて21.8%、その他の専門輸送分野、物流サポート分野などで構成されている。

 中期経営計画では、海外売上高比率を2023年までに25%、創立100周年を迎える2037年までには50%達成を目指しており、グローバル市場で存在感を持つロジスティクスカンパニーの実現に向け、国内外におけるグループ総力を挙げて展開を推進している。

物流に大変革をもたらす「デジタル・ディスラプション」とは?

 物流業界を取り巻く環境は大きく変化しており、これまでの在り方の変革が求められている。国土交通省が発表した「総合物流施策大綱(2021~2025年度)」では、社会課題としてドライバーの不足やSDGsへの対応、感染症など不測の事態、頻発する災害への対応などが挙げられている。一方で、在宅勤務の増加などにより、EC市場が拡大を続けている他、新しい生活様式に対応した物流の在り方や、持続可能な物流の社会的価値の向上といった新たなニーズも出てきている。

 これらを受け、対応が遅れている物流業界のデジタル化を推進し、労働集約型産業から人と機械が共存する装置産業へのシフトが求められている。具体的には、「物流DXや物流標準化の推進による、サプライチェーン全体の徹底した最適化」「労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)」「強靱で持続可能な物流ネットワークの構築」という3つの変化だ。これらを実現していくためには、物流事業領域の垣根をなくすデジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)が必要だと海野氏は強調する。

「現在、デジタル技術の進化で、物流業界外の企業による新たな事業モデルが次々に登場しています。例えば、自前の宅配網を構築・外販したり、ロボットのメーカーが画像認識技術を応用して新たなソリューションを提供したり、車両を持たないIT系企業が調達~決済を一貫して行える情報管理システムや求貨求車マッチングを提供しています。私たちがこれまで認識していた物流という概念の枠組みが揺らぎ始めているのです」

 デジタルは、サプライチェーンにも大きな変革をもたらしている。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあるが、デジタルの世界でも無数の事象をデータ化することで、これまでは見えなかった相互の因果関係が可視化され、一見関係のない事柄同士が影響し合っている事実が明らかになるケースが少なくない。

 サプライチェーンでも、そうした因果関係の「見える化」によって今後起こり得る未来を予測できれば、前もって対処できる。例えば、事前に安価な資材を調達したり、予測されるニーズに見合った生産計画を立案したり、人材確保や販促活動の面でも先回りした施策を打つことが可能になるのだ。その結果、売れ残りや機会損失の少ないベストタイム、ベストプレイス、ベストプライスでの売買が成立し、調達・製造・物流の効率化が実現する。