2016年、国土交通省は低迷する建設業の生産性を画期的に改善して、3K(きつい、汚い、危険)で象徴される体質を抜本的に改善すべく、「i-Construction(アイ・コンストラクション)」をスタートさせた。6年間の実施を経て一定の成果が得られた一方で、課題も見えてきた。さらに、DXの進展を背景にさらなる進化も求められている。DX時代におけるi-Constructionの新たな展開と建設産業の目指すべき姿について、立命館大学 総合科学技術研究機構 教授の建山和由氏が解説する。

※本コンテンツは、2022年4月22日に開催されたJBpress/JDIR主催「製造・建設・物流イノベーションWeek」で開催された「第1回 建設DXフォーラム」の基調講演「DX時代の新しい建設産業に向けて」の内容を採録したものです。

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建設業界を取り巻く日本社会の現状と課題

 i-Construction推進の背景には、日本における高齢化社会の現状がある。中でも「15歳から65歳までの、いわゆる『生産年齢人口』が大きく減っていくことが問題」だと建山氏は指摘する。生産年齢人口が減ると建設業の担い手が少なくなることはもちろん、税収も減りインフラ投資予算の縮小も覚悟しなければならない。

 一方で、これからは新設工事よりも維持修繕・更新の工事が増加していく。さらに、自然災害に対しても建設業は厳しい対応を迫られている。昨今、自然災害が激甚化し、耐震補強などの防災対策の費用は増加する一方だ。

「建設の役割は、社会に対して将来にわたり安定的にインフラを提供していくことです。しかし、人手も予算も限られている中で今まで以上に難しい工事をこなしていかないといけなくなっています。建設を取り巻くこれらの課題に対応するためには、これまでの延長線上の議論では対処できない事態となっているのです」

建設産業の実情を改善したi-Construction推進とICT導入の動き

 では、そのような中で建設産業はどのような実情にあるのか。一つが「低迷する労働生産性」だ。下図が示すように、製造業では、製造ラインに自動化をはじめとした合理化のための技術を取り入れることで、20年間で労働生産性を約2倍に上げてきた。一方、建設業は労働生産性を下げている。

「これは1990年代以降、建設投資やインフラ整備に対する予算がどんどん減っている中で、企業の数や就労者の数がさほど減らなかったため、結果として労働生産性を上げる必要がなかったことに起因しています」

 この状況を打破するために国土交通省が打ち出したのがi-Constructionだ。労働生産性を画期的に改善し、これまでの「きつい・汚い・危険」から、「給料・休暇・希望」という明るい展望が見いだせる「新3K」を実現して、建設業の体質を変えることを目指している。

「大きな柱は『ICTの活用』『標準化・工場生産』『発注の標準化』の3つ。中でも期待をされているICTの全面活用については、土工と舗装工におけるMG(マシンガイダンス)、MC(マシンコントロール)、ドローン測量を主軸にICTの一定導入が進みつつあり、建設業における生産性向上の兆しは見え始めています」

 一方で課題も見えてきている。所定のICT導入に対応できる企業とできない企業がいることだ。特に地方のインフラ整備を支える地方自治体とローカル企業への導入が課題になっている。

「改善するためには、新しい別のスキームが必要になってくるため、次のステップに入るべき状況であると言えます。そこで注目されているのが、建設分野におけるデジタル化の推進です」