DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が増す中で、意思決定のサイクルにデータ分析を組み込んだ「データドリブン経営」が必要不可欠になっている。その実現のためにはまず、全社的にデータカルチャーを定着させることが重要だ。BIプラットフォーム分野をリードするTableau(タブロー)で、あらゆる業界のデータ利活用をサポートしてきたセールスフォース・ジャパン川瀬 透氏に、データドリブンな組織を目指す実践的ステップを聞く。

※本コンテンツは、2022年3月22、23日に開催されたJBpress主催「第12回DXフォーラム」のセッション1「全社的なデータドリブン経営実現に向けた実践的方法論のご紹介」の内容を採録したものです。

全社的なデータ利活用を成功させる鍵は「データカルチャー」にあり

「データドリブン経営」というフレーズが飛び交う中、多くの企業がデータ活用の重要性を認識し、多額の投資を行う時代がやってきている。しかし、「データドリブン経営の実現のためには、専任担当者のみによるデータ分析の体制では不十分です」と、株式会社セールスフォース・ジャパンでTableauのマーケティング責任者を務める川瀬 透氏は断言する。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、データドリブンな組織は、そうでない組織よりも顧客を増やす可能性が23倍、10%以上増収につながる可能性が1.5倍も高まるという。その一方で、データの利活用において92%の企業が「一部での成果を組織全体へスケールできていない」と回答している。つまり全社的にデータドリブンな組織へと転換できた企業はわずか8%ということになるが、その差が生じる原因としては「データカルチャーを醸成できたか否か」が大きく関わっているという。

「データカルチャーとは、データを重視して意思決定するという信念や、それを支える行動基準を指しています。意思決定のサイクルにデータと分析を組み込むことは変革への大きな推進力になりますが、その実現には慎重かつ包括的なアプローチが必要です」(川瀬氏)

 Tableauは直感的な操作とAI機械学習によるダッシュボードや、自動レポートを提供可能なデータプラットフォームで、あらゆる業界におけるデータ利活用をリードしてきた。そこで培ったノウハウ、ベストプラクティスをドキュメント化し再構成したものが、データドリブンな組織を実現するためのガイドライン「Tableau Blueprint(タブロー・ブループリント)」だ。ここには自社の中にデータカルチャーを醸成して、データドリブンな組織になるための全ステップが示されている。

Tableau Blueprintが示すデータドリブン経営へのステップ

 データカルチャー醸成のために、Tableau Blueprintが定義する第一のステップは、分析戦略の策定だ。この狙いを「ビジネス上の成果を上げるために、データをどのように活用するのか。分析に関するビジョンと戦略を明確にします」と川瀬氏は語る。

 次のステップでは、プロジェクトの体制をつくる。プロジェクトの最終権限を持つエグゼクティブ・スポンサーをはじめ、分析ディレクター、セキュリティー管理者、プロジェクトマネジャー、コミュニティリーダーなど、Tableau Blueprintにはプロジェクトに必要な役割とその定義がリスト化されている。

 体制が確立した後の、運用フェーズについて見ていこう。まず導入、監視、メンテナンスといったテクノロジーの観点では「アジャイル性」がポイントとなる。組織の規模に応じたサーバーのサイジングやセキュリティー設定、サーバーの負荷状況のモニタリング、計画的なメンテナンスを実現し、安定的かつ最適コストで運用するためのベストプラクティスやチェックリストが、Tableau Blueprintには明確に記載されている。

 データ分析のスキル獲得のためには、まず役割別のスキルマップにもとづいてユーザー向けの教育プログラムを策定する。ここで見落とされがちなのが、評価のステップだ。モニタリングによってユーザーの動向やビジネスニーズを把握し、的確に評価することが、データや教育コンテンツの最適化につながることを覚えておきたい。現場でユーザー自らデータを分析できるようになった後は、テンプレートを使っての標準化や分析のベストプラクティスの開発を行っていく。

「一連のステップの中でも、図中の『コミュニティ』の領域は可視化されにくい、いわば隠れた要素です。しかし同時に、組織内にデータカルチャーを醸成する上で非常に重要な取り組みでもあります」と川瀬氏は語る。具体的には、メッセージツールで社内にコミュニケーションパスをつくる。ユーザーグループの立ち上げやイベント開催などでユーザーのエンゲージメントを高め、行動を変容させる。ユーザーがぶつかる壁を取り除くサポート体制を確立するといった一連の取り組みだ。またこうした活動のすべては、信頼できるガバナンスのもとに行われなくてはならない。

「ガバナンスとは、管理者が果たす役割とプロセスを組み合わせたルールブックのことです。Tableau Blueprintでは、一元管理型、委任型、セルフガバナンス型の3種類のモデルを用意しています。自社に最適なモデルを選択して、活用しながら適宜改訂していくことが重要です」(川瀬氏)

トップダウンの仕組み化&ボトムアップの自走化を成功させた導入事例

 Tableau Blueprintの実際の導入事例を紹介する。1例目は、株式会社NTTドコモによる、BIの全社浸透のための3つの取り組みだ。

「中核人材の育成」では、アンバサダーというエンドユーザー育成を担当する中級レベルのスキル習得者を育成。「視野を広げる環境整備」では、入門者がスムーズに認定まで進めるプログラムを整備した。「コミュニティの活性化」では、上級者であるデータセーバー認定者と中級者のアンバサダーのコミュニティを立ち上げ、社内でコンテストなどを開催している。ユーザー自身のモチベーションに焦点を当てて、1万名を超えるユーザーがタブローを頻繁に利用する状況をつくり出し、全社的なデータ利活用を実践している。

 2例目のベルフェイス株式会社では、5つのステップに分けて現場の自走化を促す仕組みをつくった。ステップ1で目標や共通ルールを設定し、ステップ2でメンバーを選定。選定したメンバーをステップ3、4で中核人材となる「チャンピオン」に育成し、ステップ5ではチャンピオンがメンバーへのレクチャーを行う。こうしたサイクルを回した結果、全社員がデータを起点に意思決定できる状況が実現した。

「2つの事例に共通しているのは、トップダウンによる全社的なプログラム策定を行う一方で、ボトムアップの動きを取り入れて現場側で自走させている点です。ただし、データドリブン経営を推進する上で何よりも大事なことは、方法論自体ではなく、エグゼクティブのコミットメントです」と川瀬氏は強調する。

正しく現状を把握し、データドリブンな組織へ導くための第一歩とは

 全社的なアナリティクス戦略の策定は、企業内におけるデータの責任者であるCDOやCFOなどがリードし、通信体制の構築はCoE(Center of Excellence)と呼ばれる推進部隊がギャップを特定し解決する。さらにデータ分析をビジネスに活用して成果を出すためには、事業部門側のリーダーシップも必要だ。そして、何よりもこれらに対するエグゼクティブのスポンサーシップが、データドリブンな組織の実現には不可欠の基盤となってくる。

 では、エグゼクティブ自らが率先してデータドリブンを目指し発信していくために、何から始めるべきか。川瀬氏は「自社の現状を把握し、取り組みの出発点として正しく課題を導き出すこと」と指摘し、それを支援するBlueprint・アセスメントを紹介する。

「このアセスメントは、データカルチャーの習熟度をスコア化するものです。回答者のレベルと職務によって設問は変わりますが、領域は大きく分けて2つ。アジャイル性、スキル、コミュニティおよびガバナンスに関する『戦術的視点での評価』と、データカルチャーを通じた価値創造をどのように支援しているかという『戦略的視点での評価』です。これらを、エグゼクティブをはじめステークホルダーに問いかけていきます」(川瀬氏)

 Blueprint アセスメントは無料トライアルが提供されており、Webサイト(https://www.tableau.com/ja-jp/products/trial)にアクセスするだけで誰でも無償で利用できる。登録も15分ほどで完了でき、スコアやアクションリスト、打ち手のアイデアや利用可能なサービスが示される。またこのアセスメントにさまざまな役割の人が回答することで「意見の違いを明らかにできる」「継続的な実施によって成長や変化を定点管理できる」といった効果が得られるという。

「組織の改善点とやるべきことを発見することが、データカルチャーを醸成して定着させ、データドリブンな組織へと転換していくための第一歩です」と川瀬氏はアセスメントの重要性を語る。エグゼクティブの正しい認識のもとでトップダウンの仕組みをつくり、データにもとづいて意思決定する信念を持って現場が自走する。その環境を醸成する取り組みが、データドリブンな組織の実現につながる。

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