日本企業は目前の課題にコツコツと取り組み、積み上げながら進めていくことが得意だといわれてきた。だが、ビジネスの環境が目まぐるしく変わる昨今、このアプローチでは海外企業の後塵を拝するばかり。将来のビジョンを見据えながら、変化する状況にアジャイルに対応していく「現場力」のアップグレードが不可欠だ。本稿では、株式会社シナ・コーポレーション代表取締役の遠藤功氏が、日本企業復権の鍵となるDXに必要な「現場力」について語る。

※本コンテンツは、2022年3月23日に開催されたJBpress主催「第12回 DXフォーラム」Day2の基調講演Ⅰ「DXと現場力の両輪で会社を変革しよう」の内容を採録したものです。

VUCA時代の経営には、未来を起点にした「Future-Pull」のアプローチが必要

 社会を取り巻く環境が不透明な現在の状況を「Volatility(不安定)」「Uncertainty(不確実)」「Complexity(複雑)」「Ambiguity(曖昧模糊)」の頭文字を取って「VUCA(ブーカ)」という言葉で表現するのは周知の通りだ。乱気流のような変化が常態化する中で、企業は方向性を見失わないように経営のかじ取りをしなければならない。

 コロナ禍以降、そのことをより強く実感している経営者は多いが、VUCAは決して一過性のものではない。「この先10年、20年と先が読めない時代が続くという覚悟で経営に臨まなければなりません」とシナ・コーポレーション代表取締役の遠藤功氏は言う。

「未来が読めないときは、変化し続ける環境に後から適応しようとする姿勢では、やがて経営に失敗する可能性が高いでしょう。場当たり的に環境に合わせるのではなく、自社の未来の姿やビジョンを明確にし、ゴールに向かって進んでいくことが大切です。しかし、ビジョンを掲げても、どのようにそこに到達するかという答えが決まっているわけではありません。だからこそ、実行しながら答えを探っていく必要があるのです。先が読めないからといって実行に伴って生じるリスクを怖がっていては、いつまでもビジョンは実現できません」(遠藤氏)

 未来の姿と現状の間にあるギャップを埋めるために、これまで多くの日本企業は「Present-Push(プレゼント-プッシュ)」というアプローチを取ってきた。これは、「現在を起点にして、まずできることをコツコツやっていこう」という地に足の付いたやり方だ。ところが、このアプローチは実現までに膨大な時間がかかるという欠点がある。

 そこで新たに考え出されたのが、「Future-Pull(フューチャー-プル)」というアプローチだ。未来の姿を起点にして、そこに早くたどり着くための方法を逆算して考え、実践していく進め方を言う。最近は日本の経営者の間でも、「Backcasting(バックキャスティング)」という言葉で広まってきている。

「日本人は元来フューチャー-プルのアプローチは得意ではありません。未来に向けてリスクを恐れず大胆に挑戦するというのは、欧米や中国の得意とするやり方です。しかし、得手不得手にかかわらず、日本企業がこの発想を取り入れることができなければ、海外の企業に大きく差を付けられてしまうでしょう。日本企業の多くは、生まれ変わる必要があるのです」(遠藤氏)