■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われており、この連載ではそれが学べる。第11回からの応用編では、ビジネスの仕掛け(シェアリング、プラットフォーム、オンライン化、クラウドファンディング〈購入型〉など)を単体で、または、組み合わせてビジネスを発想する考え方や事例を解説している。

 今回のテーマは「体験型消費(コト消費)×お試しマーケティング」である。

 1つ目の体験型消費とは「コト消費」とも呼ばれるもので、旅行、観光列車、クルーズ、料理教室などの習い事、スポーツ体験など、体験自体が価値となる主に無形(サービス型)商材のことである。この対になる言葉は製品などの形がある「モノ消費」だ。ただし、有形の商材でも高級車、宝石などの装飾品、ブランド衣料品などは体験型消費商材の性格が強い。例えば、宝石は普段着で家でつけても体験価値は高くないが、場所やイベント、集まる人によってコト消費商材としての価値が上がる。

 2つ目の「お試しマーケティング」は筆者が使っている言葉で、お客に試用(お試し体験)してもらって購入につなげるマーケティング手法である。初月無料、1回目半額、試乗、体験コース、フリーミアム(無料商材でお客を集め、有料版にアップデートしてもらう)・・・、これらが全て「お試しマーケティング」の具体例である。

 例えば、あなたはここ数年、「健康診断の結果が芳しくない」とする。痩せないといけないし、油分も塩分も減らそうと思うが、ストレスがたまると味の濃い、脂っぽいものをビールや日本酒で流し込んでしまう。結果、体重は減らないし、顔もむくみがちである。

 フィットネスクラブに行こうと思うが、会費も高いし、決まった時間に行けるか自信がない。もっと手軽なものはないかとネットで検索していると、ある「スマホの健康プログラム」に目が留まった。そのプログラムを見ると、歩いたり、走ったり、健康に良い活動をするとポイントがたまって、割引でスポーツ用品が買えるらしい。

 面白そうだが、月額800円台は少し高いと躊躇する。今まで健康に良いことをやろうと思っても続かなかったからだ。そう思ってサイトを見ていたら「お試し版」があった。無料で1カ月体験して、毎週一定の運動をするとコンビニで交換できる低塩分・低油分の健康に良い食品が当たるという。

 無料ならやってみよう。続かなければ、それでよいし、楽しければ続くだろう。そう考えると体験版は良い選択と思う。無料期間で体験できるから、運動習慣が身に付けばラッキーだし、無料期間で終わってもお金を払ってないので後悔をしない・・・、これが消費者から見た「体験型消費×お試しマーケティング」の事例だ。

高級自動車が売れずに困った日本法人の社長は・・・

 体験型消費は、体験することで生じる感情(楽しい、爽快、心地良い、ストレス発散になる)を価値としてお客に訴求する。逆にいえば、体験をすることで初めて価値が感じられるので、体験しないと購入につながりにくいという特性を持つ。

 しかし、通常の商取引では、購入しないと体験ができない。つまり、①「購入してもらうにはお客に価値を感じてもらうことが必要」だが、②「お客が価値を感じるには、先に購入してもらう必要」がある。この矛盾が体験型消費(商材)のペインである。

 この解消には、購入のハードルを低くする仕掛け(無料や割引)が必要だ。それが、初月無料、1回目半額、試乗、体験コース、フリーミアムなどの「ビジネスの仕掛け」である。このように「体験型消費」は「お試しマーケティング」と組み合わせないとうまくいかない。これを事例で説明しよう。

 ある海外の高級自動車メーカーが、日本で高級自動車を売っていた。ブランド力があったので富裕層によく売れた。しかし、富裕層は高齢化して免許を返納するので次第に売れなくなる。その代替が必要だが、若い世代のお客が増えていない・・・、このままでは近い将来に売り上げが激減することを悟ったのだ。

 困った日本法人の社長は、この状況をどう打開するかを社員に考えてもらうことにした。指名した社員は2人。1人はベテランのトップセールスのAさん、もう1人は新入社員でまだ、自動車を1回も売ったことがないBさんだった。