世界は脱カーボンへ向けて大きくかじを切った。加えて、コロナ禍で多くの企業が事業の転換を迫られる中、出光興産は2030年のビジョンとして「責任ある変革者」を掲げ、カーボンニュートラル社会の実現に向けて動き出している。同社のCDOとCIOを兼務し、DXを強力に推進してきた三枝幸夫氏が、その将来構想や変革の鍵を握る現場起点のDX、ワンチームで目標にチャレンジする組織づくり、そして人材育成について、事例を交えながら解説する。

※本コンテンツは、2022年3月23日に開催されたJBpress主催「第12回 DXフォーラム」Day2の特別講演Ⅱ「~Data is The New Oil! 石油からデータビジネスへ~ コトづくりを実現する、現場起点のDX」の内容を採録したものです。

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出光興産の将来ビジョン~社会課題解決に貢献する「責任ある変革者」

 燃料油、基礎化学品、電力・再生可能エネルギー、高機能材、資源など、さまざまな分野に事業を展開する出光興産だが、同社は化石燃料由来の事業に大きく依存しており、世界的な脱カーボンの動きを受けて、現在、大きな転換点に立たされている。

 その一方で、同社には、バリューチェーンの「スマイルカーブ」において、付加価値が最も高くなるとされる両端の領域(図参照)である「素材・技術開発」と「アフターサービス」の双方を有しているアドバンテージもある。「化石燃料由来のメイン商材は縮小される傾向にありますが、これを将来性の高いモノやサービスに変え、サプライチェーンをうまく生かせば大きな強みになります」と語るのは、出光興産株式会社 執行役員CDO・CIO情報システム管掌 兼 デジタル・DTK推進部長の三枝幸夫氏だ。

 同社は昨年、「2030年ビジョン」として、エネルギーの安定供給と社会課題の解決に貢献する「責任ある変革者」を掲げた。この「責任」とは、カーボンニュートラルな循環型社会への転換を進め、地球と暮らしを守る責任、高齢化社会を見据えた地域のつながりを支える責任、そして先進マテリアルを通じて技術の力で社会実装する責任の3つだ。

 石油プラントやコンビナートは、いずれはグリーン水素やアンモニア、再生可能エネルギーの供給基地、廃棄物のリサイクル拠点といった新たな役割を担うだろう。これを同社は「Carbon Neutral transformation(X) center(CNXセンター)」と名付けて将来の構想の核に据えている。さらに、サービスステーション、ガソリンスタンドのネットワークは、地域へのさまざまなサービス提供の拠点に変革できる。こちらは「スマートよろずや構想」と名付けられている。

 同社では、この2つの構想をつなげ、需要と供給のバランスをとるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の役割だと考えている。具体的には、従業員との共創を進める「Digital for Idemitsu」、顧客へ新たな価値を提供する「Digital for Customer」、そしてシナジー効果を生み出すための企業間連携「Digital for Ecosystem」の3つだ。「その中でも、まずは私たち自身がDXを使って利便性を体感しなければなりません。そこで、最初に『Digital for Idemitsu』に取り組んだのです」と三枝氏は振り返る。