JA全農 耕種総合対策部 施設園芸企画室 室長 吉田征司氏

 農業従事者の減少が加速している。このままでは、国産の農作物を維持することが危うくなっている。その対抗策は、生産性の向上しかない。JA全農(全国農業協同組合連合会)で、施設園芸の生産改革に向けた実証栽培に取り組む吉田征司氏に、デジタルと人のノウハウを組み合わせた、新時代の農業の在り方を聞いた。

国産農作物の維持が難しくなっている

 少子高齢化社会の進展で、国内のあらゆる業種で生産性向上が課題となっている。特に農業分野は他の業界と比べて著しく高齢化が進んでおり、集約化による規模の拡大、生産性の向上は急務である。

 JA全農では、農業の効率化について研究を続けている。耕種総合対策部施設園芸企画室室長の吉田征司氏は、施設園芸の生産性向上に取り組む。

「農業生産者の数が年々、減少していき、国産の農作物を維持することが難しくなっています。JA全農の使命は、その流れに抗い、国産農作物の数量を維持・拡大していくことだと考えています」

 畑に直接、野菜などを植えて育て、収穫する露地栽培に対して、ビニールハウスなどを建ててその中で作物を育て、収穫する農業を施設園芸栽培という。天候に左右されにくく、より作物に適した環境で育てることができるため、生産効率が高い。半面、ハウスの建設や温度維持のための燃料代、収穫量を増やすために多くの人手をかける必要があることなどから、露地栽培よりもコストがかかる。

 施設園芸の分野も、農業者が減少する中で生産数量を維持していくには、1人当たりの生産量を上げることが不可欠である。従来通りのやり方では生産量は増量できない。JA全農では新たな技術、ノウハウを導入し、生産者と一緒に取り組んでいる。その一環として、2014年から始めたのが、大規模化と高収量技術の蓄積のための「営農実証プロジェクト(通称:ゆめファーム全農プロジェクト)」である。

「全農は、米を中心としたプロジェクトが多いのですが、ゆめファーム全農プロジェクトは施設園芸分野の大規模な取り組みです。目標収量を高く設定しているのは、施設園芸の先進国であるオランダの生産性を分析した結果です。日本は現在の2~4倍に伸ばせると考え、プロジェクトを始めました。オランダの技術と、日本の篤農家(高い技術を持つ農家)さんのノウハウを組み合わせて、日本の新たな施設園芸技術として確立していくことが狙いです」(吉田氏)

 対象は、施設園芸で特に生産量が多い果菜類のトマト、ナス、キュウリの3品目とした。2014年にトマト(栃木)、2016年はナス(高知)、そして2019年にキュウリ(佐賀)と3カ所での実証を経て、それぞれ目標とした収量を上回る実績を残している。施設園芸企画室および施設園芸研究室のメンバーも技術を磨き、現在16名のスキルを持った技術者が在籍する。3品目に関しては国内でトップの技術者集団になっていると吉田氏は語る。