商品やサービスにおけるカスタマーエクスペリエンス(CX)の重要性が増している。損害保険でも、契約前の提案から事故発生時のフォローなど、顧客は体験価値を基準に商品や代理店を選ぶようになった。そんな中、MS&ADインシュアランスグループの中核を成す三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)では、DX戦略の目標に「CXの飛躍的な向上」を据えた。グループCIO、CISOに加え、2021年4月からグループCDOを兼任しデジタライゼーションを推進する一本木真史氏に戦略の全貌を聞く。

※本コンテンツは、2022年1月26日に開催されたJBpress主催「第2回 金融DXフォーラム」Day1の特別講演Ⅳ「三井住友海上のDX戦略」の内容を採録したものです。役職は講演当時のものです。

三井住友海上のデジタライゼーションの全体像

 企業にとって優れたCXを提供することは、顧客との信頼関係をつくり、長期的なブランド価値を向上させることと同義だ。三井住友海上でもデジタル戦略の目指すべきゴールとして「CXの飛躍的向上」を掲げているが、その背景には損害保険業界を取り巻く社会環境・リスクの変化と、それに伴う社会課題の拡大があると一本木氏は語る。

「少子高齢化・人口減少社会、自然災害の激甚化に加え、新型コロナウイルスのような感染症の拡大も起きています。さらにはサイバー攻撃など新たなリスクにも備える必要があります。こうした社会課題(リスク)に対して、われわれ保険会社は何をすべきかを考え、当社ではデジタライゼーションの取り組みを大きく3つに分けて進めています」

 三井住友海上はデジタル技術を活用したビジネス変革の2大目標として「お客さま体験価値向上」と「業務生産性向上」を置く。それらをかなえる3つの領域の1つ目が、今回のテーマであるDX(デジタルトランスフォーメーション)であり、現行のビジネスを変革していく領域だ。新たなビジネスを創造するDI(デジタルイノベーション)、そしてデジタライゼーションをグローバルに展開するDG(デジタルグローバリゼーション)とともに、三井住友海上のデジタル戦略の柱となる。

 さらに、DXによるCX向上について、一本木氏は具体的な3つの取り組みを挙げる。それは「代理店経営の高度化を支援すること」「保険の提案スタイルを変革していくこと」「お客さまへの高付加価値サービスを提供すること」だ。そのためのさまざまな施策の中でも、DX施策の象徴として2020年2月にリリースしたのが、損害保険業界初のAIを搭載した営業支援システム「MS1 Brain」だ。