■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われているが、本連載では、役に立つ9の「ビジネスの仕掛け」をテーマにビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説していく。

 今回のテーマは〈4〉クラウドファンディング(購入型)である。「クラウドファンディングとは何か、どのような仕組みなのか、どのような人が使うのか、どのような使い方があるのか」という問いに、皆さんはどう答えるだろうか。

「世の中には多くの課題がある。それを解決したいと思った人やグループがいる。その人が社会の課題を解決できる事業を始めようと思ったが、銀行が資金を貸してくれない。そこで世の中の人に自分(たち)のやることを説明して資金を出してもらう。その資金で事業を成功させ、多くの困った人を救った・・・」

 これがよく聞くクラウドファンディングの成功文脈であろう。「クラウドファンディングは社会課題の解決や人が共感するシナリオと相性がよく、そういう文脈で活用されるものであって、事業会社にはあまり関係ない」と思う人も多いだろう。

 しかし、それは間違いだ。確かにクラウドファンディングは個人やグループで社会課題に立ち向かう場合に有効な資金調達手段ではあるが、事業会社のビジネスにも有効な手段となる。「企業の事業継続」「新規事業の資金調達」「会員制予約販売ビジネス」など、用途が広い、便利な「ビジネスの仕掛け」である。

 クラウドファンディングとは、一般に不特定多数の個人から資金提供を受ける資金調達手段である。このうち、購入型とは資金を返済する必要がなく、商品やサービスを資金の出し手に返す「ビジネスの仕掛け」を指す。

 従って、企業や個人が直接、不特定の個人に商品やサービスを販売して代金を受け取るD2C(直販)の性格をもった商取引となる。ただし、通常の商取引と異なり、資金を先に受けてから、商品やサービスを開発して提供することも許容される点に特徴がある。

 この特徴を利用し、(1)「一般客には価値がないが、特定客には人気がある自社資産(モノ・体験型コト消費財・情報商材など)を返礼品とすることで支援金を受けたい場合」、例えば、コロナ禍で運転資金に困った場合などの資金調達に活用できる。その事例を見てみよう。

親会社からの支援激減に「収支トントンのローカル鉄道会社」は・・・

 ある過疎地域に、地域住民が減少して採算が厳しいローカル鉄道会社があった。この鉄道会社は歴史が古く、地元に愛されていたが、常に収支トントンで、親会社の支援を受けて運営されていた。ある時、親会社の業績が悪化、支援が激減することになったので、会社継続の危機に直面した。

 この状況で鉄道会社の社長は、何とか運賃収入を増やそうと近隣住民に支援を依頼したが、乗客は増えなかった。鉄道を使う住民自体が減っていたからだ。困った社長は、どうすればよいかを社外の人に聞いた。聞いた人は2人、1人は経営コンサルタントのAさん、もう1人は鉄道ファンのBさんだった。

 相談されたAさんは聞かれるやいなや、『運賃収入が増えない以上、会社の規模を縮小するしかない。正社員を減らしアルバイトに置き換え、人件費などのコストを絞ることが必要だ。業務品質は落ちるかもしれないが、会社を維持するためには仕方がない』と言った。

 一方、Bさんは少し考え、『歴史がある鉄道だから、鉄道ファンには垂涎の品があるに違いない。これを支援返礼品として全国の鉄道ファンから金銭的支援を受ければよい。倉庫にあるガラクタ扱いのモノクロ写真、昔の制服、古い線路の切れ端など、何でも売ったらよい』と言った。

 以降、Bさんが考えたビジネスは「支援目的のクラウドファンディング活用」と呼ばれ、歴史があり経営理念(パーパス)は共感されるが、ビジネスをうまく変革できない経営が厳しくなった企業の業務継続のために使われるようになったという。

 こうしたクラウドファンディング(支援目的の利用)の成功ケースはどのように作ればよいのだろうか。そのために筆者は、「クラウドファンディング(支援目的利用)のチェックリスト」を使っている。これを使うことで、成功する可能性が高いビジネスを考えることができる。