ヤマハ発動機は将来をにらんだデジタル化に積極的であり、経済産業省・東京証券取引所の「DX銘柄」に2年連続で選ばれている。「DX銘柄2021」では、6つの評価ポイントのうち、「ビジョン・ビジネスモデル」と「人材・組織・企業風土」の点数が特に高く、「経営ビジョンにおけるDXの位置付け、DXを実現するための工夫」が評価されている。

 ヤマハ発動機は、2008年のリーマン・ショックで大きな痛手を負い、売上高が減る状況の中でも、生産方式の改革などのコスト管理を実施。「損益分岐点経営」で生き残ることができた。また、国内のバイクの需要が低迷している状況から、海外に活路を見いだしており、海外売上高比率は9割を超えている。近年は、新型コロナウイルスの影響で2020年12月期は業績を大きく落としたが、2021年12月期には持ち直すことができている。

 しかし、バイク業界は、電動化・MaaSなど大きな変化の波の影響を受けつつあり、将来の不確実性が高い業界である。ビジネスモデルの変革が迫られる可能性もある。そうした外部環境の中で、ヤマハ発動機は攻めの姿勢のDXを展開しようとしている。今回は、ヤマハ発動機のDXの取り組みから、「未来を創る」方法を学びたい

【DXの全体像】3つのDXを同時にリンクさせて推進

 ヤマハ発動機のDXは、3つの分野に分けて構想されている。Y-DX1(経営基盤改革)、Y-DX2(今を強くする)、Y-DX3(未来を創る)である。DXに取り組む際に一番大切なのは構想の方向性だが、この3つはよく練れた構想と評価できる。

 Y-DX1(経営基盤改革)は、マネジメント基盤の刷新を目指すDXである。3つの目的が示されているが、その中で『“新しい情報”を活用して「お客さまを見える化」し、予知型経営を実現する』という取り組みが興味深い。将来を見通した予知型経営ができれば、リスクを大きく減らせるためである。一般的にはマネジメントイノベーションと呼ばれるような狙いのDXであり、経営面の変革ができるかがポイントである。

 Y-DX2(今を強くする)は、現在の顧客に関しての顧客接点に焦点を当てたDXである。『販売後も含めた継続的かつダイレクトな顧客接点の構築・活用、顧客にリアルとデジタルの両輪でパーソナライズした価値の提供』を目指すDXで、現在の製品・サービスの延長線上での新たな展開による収益拡大を狙うDXといえる。

 Y-DX3(未来を創る)は、将来に向けて新たな手段を考えるDXである。ヤマハ発動機は、従来の延長線上にないチャネルやコラボレーションによって、新たな顧客(数値目標としては2030年に2億人の顧客)とつながって未来を創造することを目指している。『顧客と双方向の関係を築き、新たな気づきやシナジーを得て、新たな価値、新たな未来を創造』する方針である。これは顧客・市場の創造を目指す狙いであり、ヤマハ発動機の3つのDXの構想の中で最も特徴的だ。