この2月、約14億人の人口を抱える大国インドがデジタル通貨に取り組んでいくことを表明した。この背景について、元日銀局長の山岡浩巳氏が解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第74回。

 インドのシタラマン財務相は本年(2022年)2月1日、議会での予算教書スピーチの中で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行計画を明らかにしました。「中央銀行デジタル通貨の導入はデジタル経済を発展させ、効率的かつ安価な通貨管理システムにもつながる。インド準備銀行が、ブロックチェーンなどの技術を用いるデジタル・ルピーを、2022年から2023年中に発行することを提案する」(“Introduction of Central Bank Digital Currency will give a big boost to digital economy. Digital currency will also lead to a more efficient and cheaper currency management system. It is, therefore, proposed to introduce Digital Rupee, using blockchain and other technologies, to be issued by the Reserve Bank of India starting 2022-23.”)と述べたのです。

 現在約14億人に達するインドの人口は、間もなく中国を抜き、世界第1位になると予想されています。大国インドが中央銀行デジタル通貨をどのように発行するのかは、海外にとっても大きな関心事となります。

 シタラマン財務相の発言は、デジタル・ルピーの詳細設計についてはほとんど触れていません。一方で財務相が、同じスピーチの中で仮想通貨投機への警鐘を繰り返し発していたことは、インドの現在の政策状況を示すものとして印象的です。

 以下では、インドの中央銀行デジタル通貨計画の背景にある、(1)地下経済、(2)暗号資産(仮想通貨)への投機、(3)急速なデジタル化、について触れたいと思います。