JFEホールディングスは、JFEスチール(高炉鉄鋼メーカー)、JFEエンジニアリング(エンジニアリング事業)などを傘下に持つグループ企業である。組織的にグループ全体でDXに取り組み、経済産業省・東京証券取引所の「DX銘柄」に2年連続で選定。DX銘柄の前身の「攻めのIT経営銘柄」にも2015~2019年の5年連続で選ばれており、計7年連続で表彰されるなど、IT活用では定評のある企業である。

 JFEスチールのような鉄鋼メーカーは、国際的な激しい競争にさらされているため、DXは生き残りをかけた手段であると考えられる。そのため、JFEホールディングスではDXに必要な資金や人材などの経営資源を計画的に投入する方針で、2021年から4カ年でDXへ1200億円程度の投資を予定。これは製造業の企業の中では、かなり大きな規模のIT投資で、デジタルに賭けているというくらいの意気込みを感じるもの。DXへの取り組みを、「革新的な生産性向上」「既存ビジネスの変革」「新規ビジネス創出」の3分野を中心に、あらゆる事業領域において推進しようとしている。

【製造現場でのDX】 CPSで革新的な生産性向上に挑む

 激しい国際競争にさらされている鉄鋼業界で生き残るには、革新的な生産性の向上が必要である。JFEスチールでは、2024年度に労働生産性の20%向上を目標に据え、構造改革効果13%、残りはDX等の活用による生産性向上を計画している。

 JFEスチールが目指すのは、インテリジェント製鉄所だ。これは、直接の確認が困難な高炉の状態を仮想的なCyber Physical Systems(CPS、サイバーフィジカルシステム)で再現して、最適運転を可能にするもの。実高炉(Physical)を仮想高炉(Cyber)で再現するリアルタイム融合化技術であり、一般にはデジタルツインと呼ばれる手法である。

 高炉の中は高温なため、センサーを置けない。そこで、高炉の外側に取り付けた1000個以上のセンサーのデータを集約し、高炉の内部の様子をCPSでシミュレーション。それにより、高炉内部の熱の状態について予測が可能になり、数十分から10時間先を予測してアクションを取れるようになった。革新的な生産性向上・安定生産をもたらす技術で、CPSは2019年11月までに全高炉に導入済。2019年4月にサイバーフィジカルシステム研究開発部を設けて、独自の技術の開発を進めている。

 このように、JFEスチールはCPSの展開に積極的であり、今後は高炉以外の製造プロセスにもCPSを導入していく方針。その狙いは
・異常予測の結果を実プロセスでの操業アクションにフィードバック ⇒ 安定操業実現
・プロセスのネックを可視化 ⇒ 生産性向上
・仮想実験によるプロセス革新や、知識・ノウハウの機械化による技術継承・働き方改革、にある。

【強みの生かし方】ノウハウ、データが新たな競争力の源泉に

 JFEスチールは自社が持つデータを生かす戦略をとる。これまで蓄積された高級鋼製造ノウハウ、老朽設備への対策、予知・予兆管理に関わるデータは競争力の源泉であるとして、それらデータの高度活用を戦略的テーマとして掲げている。ここに最新のデータサイエンス・AI等を縦横に活用することで、革新的な生産性向上、品質向上、安定操業等を実現し、競争力向上に役立てていく方針だ。

 製造業の場合、国際的なメーカー間の価格競争にさらされると利益は出しにくい。そのため、JFEスチールはソリューション事業に積極的で、データやノウハウを活用した新たなビジネスモデルに挑もうとしているのである。