出光興産の執行役員 CDI・CIO 情報システム管掌であり、デジタル・DTK推進部長を兼任する三枝幸夫氏

 日本を代表する石油元売り会社として、経済発展の一端を担ってきた出光興産だが、近年は「ビジネスプラットフォームの進化」を掲げ、DXにも積極的に取り組んでいる。2020年1月には、ブリヂストンでデジタル変革を成功させた三枝幸夫氏をデジタル変革室長(当時。2021年4月にデジタル変革室はデジタル・DTK推進部に改組)に迎え、さらなるDX推進に努めている。今回は、三枝氏にエネルギー業界におけるDXの目的やビジョンを聞いた。

「体感型」「共創型」「自走型」の3ステップでDXを推進

――これまでのご経歴を教えていただけますか。

三枝 学生の頃からオートバイが大好きで、レースに出たりしていたんです。なので自然と、自動車やレースに関係のある会社に就職したいと思うようになりました。選択肢としては、オートバイメーカーかその周辺の企業でしたが、当時の自動車メーカーというのは、就職したら自社の車にしか乗ってはいけないというルールがあったんです。それでは面白くないので、タイヤメーカーに就職すれば、いろいろな車に乗れるかな、という軽い気持ちでブリヂストンに入りました。

 入社後は生産供給体制の再編の仕事をしていたのですが、リーマンショックを機に「バリューチェーン全体でデジタル変革をして、ビジネスモデルを変えていかなければいけない」という議論が盛んになってきました。ブリヂストンはゴムの会社ですから、ゴムに関するプロはたくさんいるのですが、ITに精通する人は少ない。そこで、消去法で私がCDOを務めることになりまして。2020年1月に出光興産に移るまで、タイヤ産業とデジタルサービスをつなげる仕事をしてきました。

 出光に移ることになったきっかけの一つに、2019年4月に昭和シェル石油と出光興産が経営統合したことがあります。石油事業には、需要が減っていく中で新たな業態を生み出していかなければいけないという課題がありました。また、デジタルとグリーンは現在、世界の2大課題といわれていますが、出光興産はそのど真ん中にいたわけです。そんな出光興産からデジタル変革をやってほしいと声を掛けていただいて、ドキドキワクワクしました。

――出光興産がDXに取り組むことになったきっかけを教えてください。

三枝 昭和シェル石油と経営統合したことで、収益基盤である燃料油ビジネスが1ステップ進みました。次は会社の業態そのものを変えていく方向にギアをチェンジしていかなければいけない。そういったコーポレート・トランスフォーメーションを行うには、デジタル変革とセットであることが望ましく、そのツールとなるものの一つがDXでした。

――御社はDXへの取り組みとして、「ビジネスパートナー」「顧客」「従業員」という3つの視点での共創を掲げていらっしゃいますよね。

三枝 全部が同時に進めば一番良いのですが、やはり人が行うことですから難しいですよね。そこで、まずは出光の従業員がDXへの理解を深めて使いこなせるようになり、その上でお客さまやビジネスパートナーの皆さんと一緒に進めていきたいと考えています。

――DX推進においては、幾つかのステップを設定して進めていく企業が多いかと思いますが、出光興産ではステップを設定しているのでしょうか。

三枝 第1のステップとして、DX部門が主体となりDXへの理解を促進する「体感型」。第2のステップが、DXの実践・変革風土の醸成を行う「共創型」。そして、第3のステップとして事業部自らがDXを推進できる「自走型」を目指すという3ステップを設定しています。やはり、現場で働く人たちが腹落ちしないと、DXは浸透しにくい。

 そのため、最初はコーポレート部隊にある「デジタル・DTK推進部」と一緒に、“DXを進めるとこうなるんだ”ということを体感してもらう。そこで高評価を得られれば、「これを自分たちでできたら、もっと便利だよね」と考えるようになる。そうなれば、デジタル・DTK推進部と現場それぞれから人材を集めたチームを作ることができる。そうした共創型で進めていけば、DXのスキルを現場に移管できます。

 最終的なフェーズとしては、DXを自分たちで進められる自走型のネイティブ組織にすること。日本の製造業は、小売りも含めてまだまだ現場が強く、デジタルとうまくつながっていない印象があります。しかし、この業界はスケーラビリティがありますので、現場の優秀な人たちが自ら「こういうDXをやっていけばいいんだな」と思える組織作りができれば、日本はデジタル後進国から一気に先進国になれると私は信じています。