前回に引き続き、食品専門商社D社の改革物語を紹介しよう。前回は納期(Delivery)面、品質(Quality)面の課題のうち、納期面での改革について取り上げたが、今回は品質面について見ていこう。

 D社ではクレーム対応・クレーム削減に向けた管理体制が追い付かず、クレームの増加傾向に歯止めがかかっていない状況だった。

 「クレームを減らす」ためには、食材を製造する工場から出されるクレーム品をなくしていくことが必要だが、D社においては、お客さまへのクレーム対応のまずさにより「二次クレーム」を誘発し、売り上げの低下を招く状況も見られた。従って、D社の売上拡大に貢献していくためには、「クレームを減らす取り組み」だけでなく、「二次クレームを防ぐ(被害の拡大を防ぐ)取り組み」も必要だった。

クレームを減らす取り組み内容

 D社ではさまざまな商品(約1000種)、海外が大半を占める仕入先(約150社)とうまく付き合っていかなければならない。クレームを減らすためには、
・クレームを発生させない仕入先・工場を選び、入れ替えていくこと(入替)
・今、取引している仕入先の品質管理レベルを向上させること(改善)

の2つのアプローチがある。

 そこでまず、どの仕入先に対してどのようなアプローチで活動をしていくのかを決めることが重要だった。

 そのためには、クレームの実態を正しく把握することが必要である。D社ではクレームの情報は記録していたものの、情報が層別されておらず、単なる件数の管理しかできていなかった。

 そこで、仕入先別、製造工場別、商品別、発生事象別など、個々のクレーム情報に、適切な層別情報を加えた「クレームデータベース」を作成し、傾向を見えるようにした。これにより、どの仕入先、製造工場に対して、どのようなアプローチをとればよいのかを検討できるようになった。

 1つ目のアプローチである「入替」については、同じ商品群内でクレームの発生傾向が明らかに悪い仕入先を特定し、価格が同レベルの仕入先が見つかった場合に、製造工場の入れ替えを実施した。

 ただし、D社の圧倒的な価格競争力に対応できる仕入先は数多く存在するわけではなかった。そのため、既存の仕入先と継続して付き合っていくこと、つまり、仕入先と一緒に改善を進めていく2つ目のアプローチが活動の大きなウエートを占めた。

 2つ目のアプローチである「改善」についても、クレームデータベースを使い、クレーム発生傾向の極めて高い仕入先をランク付けし、密接なコミュニケーションをとった。そのコミュニケーションとは、「Why?」「What?」「Check!」の3つの要素から構成される。

・Why?
 まず、「なぜコミュニケーションが必要なのか」を丁寧に説明することから始めた。D社が直接取引している「仕入先」は商社機能を持つ仕入先が多くを占め、最終製造工場までに複数のステークホルダーが介在している構造だった。従って、単に仕入先に伝達するだけではなく、その製造工場にまでD社の意図を伝え、行動を起こさせることが求められる。

 そこで、クレームという問題の重大さを仕入先の幹部と共有し、クレームを削減していくことが仕入先にとっても必要であることを認識してもらった。幹部の意識を変えることで、仕入先内の活動が変わり、その活動によって最終製造工場の活動を変えることにつながるからである。「クレームの改善をお願いします」という定性的な依頼だけではなく、クレームデータベースを活用した定量的な情報も使いながら、繰り返し伝えた。

・What?
 次に、どのような対策を講じれば再発防止になるのか、その具体的対策を仕入先と協議して決めた。まず、食品工場における基本的な品質向上策を、体系的に整理・一覧化したものを仕入先と共有し、仕入先が最終製造工場に対して説明・提示しやすい状況を作った。

 そうすることで、「検査を強化します」「教育を実施します」というような抽象的な対策から、実現可能で5W1Hを明確にした具体的な対策へとレベルアップした。

・Check!
 そして最後は、検討・実行した対策によって、クレームの再発がないかを検証し、再発している場合は別の対策を検討した。つまり、クレーム情報をもとに改善サイクルをシンプルに回していく活動である。

 D社においては納入までのL/Tが約2カ月と長い商品が多いため、改善の効果が見えるのも2カ月以上後になり、効果を確認しにくい状況にあったが、クレーム発生の工場/事象をデータベース化しているため、その確認も容易にできるようになった。

 上記のようなコミュニケーションを仕入先と粘り強く行うことで、クレーム数は活動前と比較し35%削減された。特にクレーム発生傾向が高くランク付けされた仕入先においては、クレームに対する姿勢の変化も見られ、45%の削減が達成された。

 こうしたクレームの発生傾向に応じた、仕入先とのコミュニケーションは今でも継続して行われている。