マテリアル・住宅・ヘルスケアの3領域で事業を展開する旭化成グループ。同グループによるデジタル変革の成功要因は「人・データ・組織風土である」と語るのは、旭化成 常務執行役員 デジタル共創本部長の久世和資氏だ。久世氏は同社デジタル変革のロードマップを紹介。「デジタル導入期→デジタル展開期→デジタル創造期→デジタルノーマル期」の4つのフェーズについて、それぞれ具体的な施策を説明する。

※本コンテンツは、2021年11月15日に開催されたJBpress主催「第4回 ものづくりイノベーション」の特別講演Ⅱ「デジタル社会の企業価値創造とは-人・データ・組織風土を基点とした企業価値の共創-」の内容を採録したものです。

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デジタル変革の導入期では専門人材育成に注力

 旭化成グループにおけるデジタル変革のロードマップは、2016〜2017年にかけて始まった「デジタル導入期」をその第1フェーズと位置付けている。同社ではこの頃から、研究開発や製造現場の業務へのデジタルの積極的な導入・活用を試み、実績を積み重ねていったという。

 代表的な成果が、マテリアルズ・インフォマティクス(機械学習を含む、情報処理技術による材料開発)を活用した「新グレード合成ゴムの高速開発」、そして「ウイルス除去のフィルター開発(紡糸工程の最適化)」などだ。この他にも、IoT+データ分析を応用した「住宅事業領域における高品質・高信頼性の実現」。デジタルツイン技術を駆使した「アルカリ水電解システムの運転と保全の高度化」。さらに自然言語分析を活用した「IPランドスケープ(特許データ分析に基づく経営支援)」など、成果は既にかなりの件数に上ると久世氏は明かす。

「デジタル導入期には、現場や事業部、とりわけ研究開発・生産・製造におけるIT・デジタルの専門人材育成に注力しました。特筆すべき施策としては、現場における実際の課題を解決することを通して学習してもらっています。また、同時に学習者が壁にぶつかったときのコーチ役として、専任のメンターを配置したことなどが挙げられます。教育コンテンツもオリジナルで自作し、自社の事業に即した例題や文章、言葉使いを盛り込んだ教育ができるように配慮しています。また、データ分析・データサイエンスを希望する人向けには、学習用にデータ分析プラットフォームを用意し、仲間同士で教え合えるよう、コミュニティ活動の活性化も会社として支援しました。この結果、マテリアルズ・インフォマティクスを中心とした研究開発分野では2021年度までに630人を育成する予定が、目標を上回る700〜800人超の人材を輩出。生産・製造でも同様に、多くの人材が育っています」

複数の事業に同時展開することで変革を加速

 第2フェーズである「デジタル展開期」を象徴するトピックスは、2021年4月のデジタル共創本部設立だ。同本部では「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のさらなる加速には社内外の知恵を『Connect』し、価値を共創していくことが極めて重要」と考え、そのために「マーケティング、R&D、生産技術などからデジタル人材が集結」し、また「社内外の交流を促進し、DX基盤の強化とビジネスの創出を目指す」としている。

「これまでは、研究開発本部や生産技術本部などの各本部でデジタルチームを持ちながら、それらがバラバラに行動していました。それが今回のデジタル共創本部設立により、デジタル変革の推進チームが全社的な統率の下で、まとまって動けるようになりました」

 同本部はCXテクノロジー推進センター、インフォマティクス推進センター、スマートファクトリー推進センター、共創戦略推進部、DX企画管理部、IT統括部という6つの部門によって構成されている。そのミッションには「旭化成グループの強みである多様性を生かしてビジネスモデルを変革し、価値の創造をリード」「各事業に加えて、旭化成グループ全体の経営におけるDXの定着」、そして「デジタルと共創による変革の加速」の3つをうたっている。

「デジタル導入期では、ある事業における特定のフェーズおよび業務に絞ってデジタルを適用し、効率化・高度化を図っていきました(図1 ステップ1:個別適用)。そこである程度の成果を見定め、うまくいったケースを他事業に展開する(図1 ステップ2:他事業展開)。さらにはある事業で蓄積されたデータを、別の事業に横展開していく(図1 ステップ3:事業軸展開)。しかも、これらを順番にではなく同時進行させることで、全体のデジタル変革をより加速していこうと考えています」