2022年ビッグショー会場の風景 〔出所〕筆者撮影

 ニューヨーク市内がオミクロン感染ピークだった1月16日から3日間、NRFは第112回ビッグショーを対面のみで決行した。2019年には3万8000人を超えた参加者数もNRF発表で1万5000人、現地の様子では実数はもっと低そうだった。エキスポ会場は出展企業のキャンセルが相次ぎ、中央にはテニスコートが作れるほどのスペースが休憩用のテーブルと椅子で埋められていた。講演会も十数本が直前にキャンセルや講演者の総入れ替えがあった。

 それでも初日の基調講演には、約1500人収容できる会場が7、8割埋まり、アフターコロナの方向性を探る人々の期待が感じられた。大手小売企業トップによる基調講演はコロナ禍2年目の対応とその後の業績回復、従業員への謝辞という話が多く、今後については共通して「コロナ感染だけでなくインフレ、サプライチェーン問題、労働力不足とあまりにも先行き不透明な要素が多いので、むしろ目の前の顧客の変化に集中して波を乗り越える」というコメントが多かった。一方で現在注目されているテーマ別の講演では、事業責任者から現場の課題と方向性について示唆に富んだ話を聞くことができた。DEI(多様性・公平性・包括性)も重要課題として議論が交わされた。

 本レポ―トは3部構成で190の講演の中からデジタルイノベーションが関わるテーマを取り上げ、第1部はサステナビリティ、ラストマイル配送の最前線について、第2部はライブコマース、メタバースについて講演内容のハイライトをまとめ、第3部はエキスポ出展のリテールテック系スタートアップ企業を紹介する。

サステナビリティ:ベストバイのリバースロジスティクス戦略

(右)ベストバイ社 サプライチェーン戦略VP ベッカ・メインツ氏、(左)リバースロジスティクス協会 エグゼクティブディレクターのトニー・スキアロッタ氏 〔出所〕筆者撮影

 Eコマースシフトが加速する中、小売業界は増加の一途をたどる返品問題に頭を抱えており、2021年業界全体で16.6%(前年10.6%)、Eコマースでは20.8%(同18.1%)が返品されている[1]のが現状だ。従って、リバースロジスティクス[2]の構築は避けて通れない課題となっている。家電最大手のベストバイは2009年から累計90万トン以上の家電を回収・リサイクルしており、2030年までに二酸化炭素排出量を75%削減するだけでなく、顧客の排出量も20%削減する目標を掲げており、2040年カーボンニュートラル宣言もしている。2021年4月にカリフォルニア州にオープンしたリバースロジスティクスセンターは、グリーンビジネス認証団体から廃棄ゼロのTRUE認証[3]されており、廃棄・リサイクルを効率的に行うためのソフトウエア企業 ルビコン(Rubicon)社のシステムを使ってデータ分析し、廃棄ゼロに向けた業務を行っている。

 登壇した同社サプライチェーン戦略VPのベッカ・メインツ氏は、リバースロジスティクス(RL)では返品商品はさまざまなパッケージで1つ1つ異なる状態で戻ってくるため、非常に複雑なプロセスやさまざまな部門・組織が関わっている点を指摘する一方で、返品は顧客との重要なタッチポイントであり、そのプロセスで顧客が不満なく簡単で迅速に返品できるかどうか、その経験が次の購入に影響すると説いた。同社はなるべく迅速にRLを進めて商品を循環させることを目標にしているが、最近は、循環経済の確立上、RLの重要性が従業員だけでなく顧客の間でも認識されるようになってきている。

 なお、返品理由を適切に聞き出すことで返品削除につながる場合も多いと言う。例えば、プリンターが動かないという理由の場合、ワイヤレスなのにWi-Fiにつなげる必要があることを認識していなかっただけと分かれば、同社テックサポートサービス、ギークスクワッドにつないで返品を防ぐことができる。

 また、中古品や返品商品を販売するリセール(再販)も重要で、その市場規模は米国で推計60億ドルに成長しているが、コロナ禍やサプライチェーン問題による品不足で中古・修繕パソコンやテレビなどへの需要が高まり、ベストバイでも新品の供給が滞った際には営業面で救いになった。

 ただし、対談相手のリバースロジスティクス協会エグゼクティブディレクターのトニー・スキアロッタ氏は「メーカーから顧客まで製品が移動する間に7つのタッチポイントがあるといわれているが、RLだとそれが30前後に増える。タッチポイントが増えるほどコストがかかる」点を指摘、この点についてベストバイからの明確な返答はなかった。いずれにせよ企業経営にとって循環性モデルの構築はSDGs達成上、不可欠となっていること、消費者もそれを求めている点に言及し、もはやRLへの取り組みを避けるという選択肢は無いことを印象付けた。