製造業のDXをテーマにした、この連載。前回は改善、スマートファクトリー化に向けて前回は製造工程をいかに可視化していくかについて解説した。今回は、工場などでDXプロジェクトを始める場面で遭遇する幾つかの課題から、可視化の前提となるデータ収集のためのインフラ整備について言及したい。

可視化の前提となるネットワークインフラの存在

 ものづくり企業においてDXプロジェクトが立ち上がり、いざIoTの仕組みを導入するぞ、と検討が始まって数週間。おおむねソリューションを選定する段階で、はたと困る場面に遭遇することがある。工場にIoTの仕組みを接続できるようなネットワークインフラがないということだ。

(1)ネットワークが・・・無い
 金属部品の製造工場のプロジェクトでのこと。後付けのIoTのモニタリングシステムを導入して設備の稼働状態を見える化しようと検討を進めていくうちに、実は工場にはネットワークが無い、という話になることがある。

 中小企業によくあることだが、人が中心に加工をしている製造業の場合ではネットワークが必要とされてこなかった経緯もあり、工場内にネットワークが敷設されていないケースも散見される。もしくは制御線のネットワークは存在していてもIP(Internet Protocol)を通すEthernetベースのネットワークが存在しないということもある。

 ネットワークをゼロから敷設するとなると大きな投資が必要となるため、それに二の足を踏む会社も多いのが実態だ。

(2)ネットワークがつながらない
 では、ネットワークを敷設しようと、LANケーブルを工場内に敷設する場合、後で記すように配線コストが課題になることが多い。そのため、それなら無線LANでネットワークを構築しようとすると、今度は製造業の業態によっては無線LANがつながらないという事態に直面する。

 例えば、製鉄所や大型のプレス機が稼動している工場などでは、高熱の炉やプレス機から放出される輻射ノイズによって工場内の無線LANの通信が途切れ過ぎて、使い物にならないのだ。無線LANを導入すればよいと思っている人は多いが、そう簡単ではない業種もあるということを理解する必要がある。

(3)回線が細い、帯域が狭い
 せっかくネットワークがあっても、かなり昔に引き回した状態から更新しておらず、そのまま運用している企業も多い。本社や外部取引先とのメール等の通信が辛うじて行えればよいと考えている工場も多く、そうした場合、工場現場の通信環境も劣悪な場合が多い。

 工場にあるのは制御線のネットワークがほとんどであり、帯域が狭くインターネットにはつなげていないことも多い。インターネットにつながっていてもIoTなど秒単位で大量データをロギングするような使い方だと、実際には使い物にならない。

 また、工場まできているバックホールの回線も見直しが必要なことも多いのが実態だ。このことはこれまで工場がネットワークにつながる必然性が無かったことに起因している。