本来、「機動的組織」とはトップダウンが行き届いた組織を指す。しかし、これからの時代はパーパスやミッション・ビジョン・バリューを構造として備えることが必須になるといわれている。吉野家などのCMOを歴任し、株式会社グリッドのCEOであり、公益財団法人日本スポーツ協会ブランド戦略委員会委員を務める田中安人氏が、ビジネス界とスポーツ界それぞれの強みを構造化し、勝ち続ける「機動的組織」を解き明かす。

※本コンテンツは、2021年12月6日に開催されたJBpress主催「第3回 Marketing & Sales Innovation Forum」の特別講演Ⅳ「実践的戦略マーケティング〜これからの生き残る機動的組織の構造〜」の内容を採録したものです。

動画アーカイブ配信はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69012

パーパスドリブンな組織のミッション・ビジョン・バリューの構造

 田中安人氏は、「パーパスとは『組織のDNAを削り出す』ことを指します」と言う。

「組織は性格ならぬ『法人格』を持っていて、言動一致していることがまず大前提です。そして、行動の指針となるのがパーパス、その組織の存在意義です。組織はパーパスドリブンであるべきですが、これがなかなか浸透しないという悩みをさまざまな企業のCMOから聞きました。そこで、私が研究会をつくって解き明かしたのが下図のような構造です」

 組織が持つミッションを田中氏は「オリジナルな存在意義」と表現する。その対極にはビジョン、つまり「ワクワクする未来」があり、現在地(now)はその途上にある。そして「パーパスとは船の航海図のようなもの」だという。

「組織の北極星を発見しよう、とよくいわれます。これを簡単にしたものが『ワクワクする未来』です。売上高、利益といった言葉では圧力になってしまいます。どんな未来を創造するのか、できれば映像にまで落とし込んで、イメージを共有することが大事です」と田中氏は語る。

 さらに、田中氏は右側の「バリュー」は「経営者の価値基準」であり、パーパス、ミッション、バリューに連動している必要があるという。そして、事業には2つのベクトル、「深化」と「探索」がある。これはつまり、既存事業の磨き込みと新規イノベーションのことを指す。これら2つの方向性は、ミッションとビジョンからなる軸があってこそ明確になる。

組織の問題点を洗い出す9ボックスと組織変革の8段階のプロセス

 次に、ビジョンを戦略・戦術に落とすグランドデザインが重要になる。田中氏は第2次世界大戦におけるチャーチルを例に挙げて、その重要性を指摘する。

「チャーチルは本国決戦に『バトル・オブ・ブリテン』と自ら名前を付け、最後の戦いであることを示して国民を鼓舞しました。これが国民にミッションを明確に示す、チャーチルのグランドデザインの設定でした」

 グランドデザインを設定するにはまず、組織を理解する必要がある。

「人体は血流が滞っているところが病気になるように、企業はコミュニケーションが滞る部分が悪くなる」という田中氏。同氏は、この滞りを見つけるために独自開発した下図の「9ボックス」という手法を使う。

「縦にビジョンの強度、プロセスの一貫性。横に浸透性の一貫性、制度設計の一貫性、ストーリーの一貫性を置きます。これらに当てはめて一貫性を見ていくと、どこが組織の問題なのか見えてきます」