「インディ・オートノマス・チャレンジ@CES」の決勝レースで直接対決(Head to Head)方式のバトルを繰り広げるPoliMOVE(奥)とTUM(手前)の自動運転レーシングカー(出所:IACの広報資料より)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

「CES 2022」の最終日となった2022年1月7日の朝10:00。メディア関係者約20名を乗せたバスはLVCC西館の北エントランスを出発してハイウェイの15号線を北へ向かって走っていた。

 ラスベガスの市内にいると気が付かないが、人の世の虚飾の限りを尽くしたこの街も一歩郊外へ出てみると赤茶けた岩だらけの砂漠地帯に人工的に作られた楼閣であることがよくわかる。30分ほど走ってハイウェイを降りると、「インディ・オートノマス・チャレンジ@CES(Indy Autonomous Challenge@CES)」のレースが行われるラスベガスモータースピードウェイが砂漠の中から突然、姿を現した。

 クラブハウス脇でバスを降ろされると、頭上で凄まじい爆音が轟いている。サングラスをかけて乾燥地帯の眩い天空に目をやると、米空軍の戦闘機、F22ラプターとF35ライトニングがそれぞれ2機の縦列編隊で空を切り裂いていた。サーキットのすぐ北隣は有名なネリス空軍基地なのだ。

メディア関係者を乗せてCES会場を出発するラスベガスモータースピードウェイ行きのバス(筆者撮影)

なぜ今、自動運転の自動車レースなのか?

 インディ・オートノマス・チャレンジ(以下、IAC)とは自動運転レーシングカーによって、直接対決(Head to Head)方式で最高速度を競う、近未来の自動車レースである。レーシングカーを操るのは生身のレーサー(人間)ではなく、自動運転の自律アルゴリズム(ソフトウエア)であるというのが従来のレースとの最大の違いになる。

 IACは約2年前にレース開催の最初の告知がなされ、全米14州と海外11カ国から41の大学がエントリーを行った。最終的に合従連衡やリタイヤにより9つのチームに絞り込まれ、昨年(2021年)10月23日には歴史と伝統のあるインディアナポリスモータースピードウェイ(毎年5月に開催される、かの有名な「インディ500」の会場)を使って史上初の自動運転によるレースが開催された。

 この時のレースでは、モデナ・レッジョ・エミリア大学(イタリア)とテクノロジーイノベーション研究所(アラブ首長国連邦アブダビ)からなる「EURORACING」(現「TII EURORACING」)チームが最高時速175.96マイル(時速約283.2キロメートル)を叩き出したものの、プログラムのミスで周回が1周足りず失格となり、2位のミュンヘン工科大学の「TUM」に優勝と優勝賞金100万ドル(約1億1000万円)を目前でさらわれる結末となった。このイベントの詳細は、2021年12月に寄稿した「JDIR」の記事「レースの最新形!自動運転フォーミュラカーが時速300キロで激走」でレポートしたのでお読みいただきたい。

 それでは、昨今、交通事故や地球温暖化ガスが喫緊の社会課題と認識される中で、なぜ自動運転の自動車レースなのか?

 IACを主催するのは、インディアナポリスにあるNPO法人で、エネルギーと輸送技術セクターの進歩に取り組んでいる「ESN(Energy System Network)」である。上記の素朴な疑問に対しては、2022年1月4日、CES 2022のメディアデーのIAC@CESの記者会見においてESNの社長兼CEOのポール・ミッチェルが明確なコメントを残している。

「(高速の自動運転レースを開催することで)自動運転全体の限界を押し上げ、すべての商業輸送モードで安全性とパフォーマンスを向上させる。例えば、高速道路で自動運転車が走行する場合、一度に1台ずつではなく互いに接近して走る必要がある(下の写真を参照)。自分たちが直接対決(Head to Head)のレースにこだわる理由は実はここにある。ESNは賞金コンテストの力を利用して世界中の最高の頭脳を結集し、最高のテクノロジーを発展させる」

自動運転車が高速走行する場合、互いに接近するシチュエーションが想定される。最高時速300キロメートル近い超高速でのレースから、有益なフィードバックが期待される(出所:digital.ces.tech)