コロナ禍は、日本のデジタル化の遅れと課題を浮き彫りにした。KADOKAWA 代表取締役社長で、慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏は、これまでの日本のIT革命を振り返りながら、日本経済が停滞した原因として「生産性の停滞」「規制によるイノベーションの抑制」「改革を忌避する既得権益団体の存在」を挙げる。デジタル革命に乗り遅れた日本が、巻き返すために今、必要なこととは何か。

※本コンテンツは、2021年11月24日に開催されたJBpress主催「第11回 DXフォーラム」の特別講演Ⅱ「アフターコロナに向けて~日本企業が今取り組むべき課題~」の内容を採録したものです。

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コロナ前が本当に良かったのか?

 コロナ禍で多くの企業がワークスタイルの変更を強いられ、手探りで取り組んできた。しかし、アフターコロナが見えてきた今、コロナ前の状態に戻すことを検討する経営者も少なくない。そんな経営者に対し、夏野氏は「コロナ前が本当に良かったのか?」と疑問を投げ掛ける。

「規制改革推進会議の委員を2年間にわたり務める中で、こんなことも改革できなかったのか、こんなルールがいまだにあったのかという場面に多く出合いました。例えば、『ハンコ改革』というのはまさにその典型。改めて三文判について調べてみると、書類の信頼性の担保する効果はないということが分かりました」

 コロナ前の日本社会について夏野氏は、「IT革命の25年だった」と振り返る。1994年1月にアメリカでYahoo(Yahoo!)が誕生し、インターネット上での情報の検索を可能にしました。1996年4月、日本でもサービスが開始されると、日本のIT革命もスタートしました。

 アメリカと日本の差は、おおよそ1年の差でしかなかった。その後、日本では、1997年に楽天市場とAmazonが、1998年にはGoogleがサービスを開始。この頃は、まだコンピューターが1台80万~90万円の時代で、現在のように1人1台所有する状況にはほど遠かった。しかし、今は、コンピューターやスマートフォン(タブレット)がないと仕事にならないほど浸透している。

「テクノロジーの進化が人の仕事の生産性を向上させると、人が余り始めます。余った人たちが新しい、より付加価値の高い仕事をつくり出し、それによって文明が進化していきます」

 夏野氏によれば、リゾート産業は生産性が向上し余った時間によってできた市場だという。テクノロジーが進化すると仕事を失う、とネガティブな面も取り上げられるが、実は生産性の向上による余剰人員が新たな文明を生み出すという「ポジティブフィードバック」が人類を進化させてきたというのだ。

 ところが1996年からの25年、大きなテクノロジーの進化があったにもかかわらず、日本経済は停滞していた。

 日本の25年間のGDP成長率は、名目GDPでたったの4%、生産性においても4.6%しか成長していない。一方、アメリカは名目GDPが165.0%、生産性が117.9%成長。他の諸外国においても、フランスでは名目GDP69.1%、生産性51.1%、ドイツでは名目GDP54.6%、生産性51.6%、イギリスでは名目GDP99.8%、生産性74.0%の成長。IT先進国の一つである韓国は名目GDP169.9%、生産性137.6%となっている。

「1990年代の韓国は、先進国とは見なされていませんでした。サムスン電子やLGも世界ブランドではなかったが、今や日本のトヨタ自動車を超えるような時価総額となり、世界中で認知されています。日本はデジタル革命に乗り遅れてしまったのです」