モーハウスでは、授乳しながら会議に参加することは日常光景となっている

 2020年の男性による育児休業取得率は12.65%。妊娠・出産を機に、主に女性は「子どもを保育園に預けて働く」か、「子育てに専念する」かの決断を迫られる。自分が働くためには、早期に子供を預けなくてはと考える母親がほとんどだ。だが、子どもと一緒に働けるとしたらどうだろう?

 授乳服専門店のモーハウスは、「子連れ出勤」という「第三の選択肢」を提供してきた会社だ。同社で子連れ出勤を経験したスタッフは300人を超える。代表の光畑由佳さんは、モーハウス創業以前に電車も通らない地方で出産した。子育て中という立場での仕事探しは難しかったと、当時を振り返る。

「地方ではそもそも仕事の選択肢が少なく、子連れならなおさらです。出産してからも働き続けたかった私は、パート、フリーランス、今でいうテレワークなどいろいろな働き方を模索しました。モーハウスを起業し、子どもと一緒に働く現在の『子連れ出勤』という働き方にたどり着きました」

 1997年の会社設立当初は、自宅で授乳服の試作や発送をしていた。5人弱の仲間はみんな小さな子ども連れだったので、自然と短い時間だけ集まって働くスタイルに落ち着いた。光畑さん自身が子連れで仕事していたので、他のスタッフも子連れで働くことは当たり前のことだった。

 立ち上げ期こそ「なんでもあり」で自由に働いていたが、働く人数が増えるに連れて、次第にルールも生まれた。「子どもがいたずらしたら、自分の子どもでなくても叱る」「3歳以上の子はたくさんいると職場が騒がしくなってしまうので、会社にいるのは1人まで」など、実践することでノウハウがたまり、うまくいくコツが見えてきた。

 そして2006年、全国紙にモーハウスの商品ではなく、働き方についての記事が掲載された。「子連れで働くことが注目されるんだ」と気付いた光畑さんは、積極的に自分たちの「子連れ出勤」という働き方を世に広めていくことを決めた。都内・青山(現在は日本橋)に出店したのも、一等地の路面店と目立つ場所に店舗を構えることで、子連れで働く姿を広めるためだ。