日本経済をけん引する製造業が、今後も競争力を維持していくためにはDXが必須だ。安川電機は創立100年の節目に掲げた長期経営計画「2025年ビジョン」の実現に向け、「YASKAWAデジタルトランスフォーメーション(YDX)」に取り組んでいる。その狙いと活動状況、そしてBtoBにおけるDXの方向性と具体例について、同社代表取締役社長の小笠原浩氏が話す。

※本コンテンツは、2021年11月11日に開催されたJBpress主催「第4回 ものづくりイノベーション」の特別講演「安川電機が目指すYDX」の内容を採録したものです。

安川電機が目指すYDXとは

 福岡県北九州市に本社を置く国内を代表するメカトロニクス製品メーカーの安川電機。1915年(大正4年)に創立し、2020年度実績でグループ連結売り上げは3897億円に上る。創立100年を迎えた2015年に、長期経営計画「2025年ビジョン」を掲げた安川電機。同社のDXである「YASKAWAデジタルトランスフォーメーション(YDX)」を合言葉に、工場の自動化・最適化と新たなメカトロニクス応用領域への挑戦を進めている。

「Mechanism(メカニズム)」と「Electronics(エレクトロニクス)」を融合した概念。顧客の機械装置と同社の電機品を融合し、より高い機能を発揮できるようにとの考えから安川電機が1960年代後半に世界に先駆けて提唱した。

 同社では、DXが注目される以前の1970年代後半から、YDX前史ともいえるデジタルシステムの導入を進めてきた。例えば、CAD情報から設計を一貫してつくるシステム「EPICS」の開発を1979年から開始。生産工学・生産技術分野において卓越した業績をたたえる大河内賞を受賞するなど、時代に先駆けて業務プロセスのデジタル化を図ってきた。また、1996年にはペーパーレス化にも着手。海外拠点含め4000台のパソコンを連携し、伝票レスと決済時の印鑑廃止を実現している。

「DXによってレガシーシステムを全て捨てる必要はなく、使えるものは使い倒しながら、徐々に移行していけばいいと考えています」と小笠原氏。では、具体的にどのように進めているのだろうか。

「現在、海外事業を含め連結で68社、74拠点あります。国によって原価や部品に対する考え方が異なるため、システムもコードも共通のものではありません。そこで、現場での運用は既存のデータを使い、出口でデータをそろえて標準化し、グローバルデータベースにつなぐことを実現しました」

 小笠原氏が社長就任時から持つ「データを世界の共通言語に」という思いが、YDXビジョンのベースとなっている。従業員一人一人の働きを全社の利益に確実につなげていくことが「デジタル経営」の本質と考え、その実現のためにデータの一元化を進めてきた。

 上図は、YDXの狙いが凝縮された「10年ビジョン達成に向けたICT戦略」だ。現在はIntegrated(統合的)の段階で、経営資源の可視化や一元化を行うフェーズとなっている。次なるIntelligent(知能的)の段階では経営資源の最適配置を、Innovative(革新的)の段階では顧客への提供価値向上を強化。安川グループの技術・生産・販売の在り方を変革させ、社会に新たな価値を提供することを目指している。

「DXというと気構えてしまうかもしれませんが、製造業の基本に返ってシンプルに考えると理解しやすいです。ものづくりに必要な5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の考え方は、DXにも当てはまります。例えば、クラウド上に不要なファイルがあれば消去する、すぐに欲しいデータを見つけられるように整理する、正常化されたデータベースでセキュリティーを保つなど、デジタルツールに置き換わっても本質は変わりません」