――日本の産業を活性化させるキーは「デザイン」ではないか?

「デザインマネジメント」をテーマに第5回のオニワラを開催した。登壇者はJapan Digital Design代表 河合祐子氏、日本のデザインマネジメントの第一人者エムテド代表 田子學氏、IBMデザインプリシパル 柴田英喜氏、IBM執行役員 藤森慶太氏、モデレーターであり当記事を書いているHEART CATCH西村真里子。

 オニワラはIBM Future Design Lab.と株式会社HEART CATCHが「鬼が笑うほどの未来の話を業界第一人者と語り合う」ことを目的に2020年12月から実施している座談会だ。

 ビジネス界の第一線で活躍している方々がビジネスについてだけを話すのではなく、あるべき未来を作り出すための視点を共有し合うのがオニワラなのだが、デザインマネジメントを軸に行った第5回は不透明な未来しか描けない現在の日本の産業が欲してやまない、キラリと光る未来へのヒントがちりばめられた座談会になった。

 この事後レポートでは座談会中にでてきた未来をポジティブに切り開く珠玉のメッセージを中心にお届けしたいと考えている。

〔全貌が気になる方はぜひアーカイブも視聴いただきたい〕
https://www.youtube.com/watch?v=eNRMoyhR6zc

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 まずゲスト登壇者選出の理由を紹介する。なぜJapan Digital Designの河合祐子氏にご登壇いただいたのか?

 河合氏はプロフェッショナルキャリアの中心を中央銀行で過ごしている。私が河合氏にお会いしたのは彼女が日本銀行の欧州統括として活躍されているころだ。欧州・アフリカを飛び回る彼女が2020年に選んだ活躍の場所がJapan Digital Designである。

 世界の金融のど真ん中にいた彼女が金融スタートアップを選んだ理由は「金融業界の中心に長年いながら、自分に合った資産運用メニューがない。それでは、ないのであれば自分で作りたい」からだ。Japan Digital Designは今までにない金融サービスを生み出すためにAI/テクノロジー×体験デザインを武器にしている。河合氏曰く、今までの金融業界に欠けがちであった顧客視点に真っ向に向き合っているのがJapan Digital Designなのだ。

 ゲスト登壇者2人目はデザインマネジメントの日本における第一人者、エムテド代表の田子學氏。

 田子氏は日本における今までの「デザイナー」の定義・役割を覆すほどのインパクトあるプロジェクトを残している。三井化学の研究者たちと新たな素材価値を創造する「MOLp」プロジェクトでは、証券アナリストの高評価を受けて三井化学の株価が上がるという状況を作り、高級洋食器メーカーの鳴海製陶のビジネスの好転にも寄与している。つまり、市場に影響を与えるデザイナーが田子學氏だ。

 ゲスト登壇者3人目はIBMデザインプリンシパルの柴田英喜氏だ。「GOOD DESIGN IS GOOD BUSINESS」を軸にIBMのテクノロジーをデザイナーの立場でクライアントプロジェクトにインストールする日本IBMのデザイン第一人者である。

 IBMをテクノロジー企業としてみる方が多いと思うが、創業当時からデザインを大切にしており、近年ではデザイナーの採用を積極的に増加する動きも見られる。産業・生活へのテクノロジーの浸透・深度が増す時代に、柴田氏のようにテクノロジーを熟知し人間のためのデザインとして変換できるデザイナーの存在がこれからさらに重要になる。

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 さて、なぜ日本では「デザイン」が経営の中心に入ってきていないのだろうか?

 Japan Digital Design河合祐子氏はダイバーシティーの欠如が理由ではないかと語る。

河合:「私のプロフェッショナルキャリアの前半はアメリカの銀行で後半は日本銀行だったのですが、この組織を比較するとダイバーシティーが全然違うんです。組織の中にダイバーシティーがあると、日々のマネジメントにおいてデザインを意識しないと意思疎通が難しい。組織メンバーの一人一人の状態を考えてその人に合うようにメッセージをお届けする。常にそのような訓練をしている人とそうではない人ではデザインに対する意識が全く変わります。

 私がキャリアをスタートさせた30年ほど前に男女雇用機会均等法が施行されました。まずはユーザーに女性が多いトイレタリー業界に女性のマネージャー職が増えていきましたが、今ではそのような会社は役員レベルでも女性が多いです。それに比べて日本の金融業界では今でも圧倒的に女性が少ない。似たようなプロファイルの人とばかり働く環境だと日々の業務においてデザインを考えなくても意思が通じ、デザインを意識しないことが当たり前になっちゃうんだと思います」

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