本コンテンツは、2021年5月25日に開催されたJBpress主催「第1回経営企画イノベーション」のセッションⅢ「企業成長に求められる戦略的投資に向けた財務DX」の内容を採録したものです。

キリバ・ジャパン株式会社
ディレクター、トレジャリーアドバイザリー
下村 真輝 氏

グローバルナンバーワンの財務管理システム

 企業変革が求められる時代に、経営企画等の部門と同様に財務部門もまたその役割がこれまで以上に高まっており、グローバルナンバーワンの財務管理システムの提供を通じて多くの財務部門と接してきたKyribaの視点で、財務部門はどうあるべきかについてお伝えします。

 キリバ・ジャパンは、2000年にサンディエゴに設立されたKyriba Corporationの日本法人です。クラウド型の財務管理システム「Kyriba」を提供しており、現在、100カ国以上において、世界に名だたる大企業を中心に2400社超、日本でも70社超のお客さまにご利用いただいています。

経理・財務業務におけるKyribaの位置づけ
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 当社が提供するトレジャリー・マネジメント・システムは、資金管理、支払管理、財務取引管理、グループファイナンス管理、為替管理、銀行取引管理、サプライチェーンファイナンスなど、仕訳・照合等ほぼ全ての財務業務をカバーしています。

海外ビジネスの拡大に伴い増加する財務課題

 多くの日本企業で、M&Aを含めて海外ビジネスが拡大し、海外の子会社、取引の数が増えたことにより、海外で余剰資金が滞留しています。その資金の滞留先の海外子会社からの報告データが不正確だったり、定期報告が守られなかったりすることで、正しい資金状況が把握できず、資金偏在解消・運転資金適正化への取組みが難しくなっています。

 海外展開が進むほど、企業の資産は各国に分散され、その結果さまざまなリスクにさらされます。為替リスク、金利リスク、カウンターパーティーリスク、不正リスクなど、リスクにさらされている資金量、つまりエクスポージャーをタイムリーに把握することが困難になっています。しかし、この課題を放置すれば、経常収支の悪化、機会損失、資金ショート、不正、為替の影響の増加による業績懸念などが生じます。

日本のグローバル企業の財務部門の現状と課題
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 さらに、企業を取り巻く環境として、VUCAと呼ばれる先の見通せない時代に入っています。上記のような足元の課題を抱えつつも、時代の変化をいち早く察知して、機動的に柔軟に対応していく必要があります。

意思決定と施策実行をサポート。変わる財務部門の役割

 こうした状況下で、財務部門に求められることの1つは、経営層とフロントを走る事業ラインの意思決定を支援することです。

VUCAの時代において財務部門に求められること①
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 例えば、メーカーにおいて経営環境の変化により、生産地の変更を余儀なくされたとします。まず、生産部門や経理部門が中心となって走り出すでしょう。しかし、生産地を変更したことに伴う資金面からの判断材料は財務部門が提供することになります。

 そしてもう1つが、施策の実行支援という役割です。その役割は下図のように3つに分けられます。

VUCAの時代において財務部門に求められること②
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 1つ目は、立案された施策の実行を支援するための資金準備です。経営の要請に迅速かつ機動的に対応できるように、グローバルの資金を可視化して資金調達コストのミニマム化などに取り組みます。

 2つ目は、生産地切り替えの例で言えば、切り替え後のサプライチェーンにおける為替や流動性のリスクをしっかり管理することです。各拠点間の資金の流れや通貨別の残高、為替エクスポージャーなどを把握して、適切に対応することが求められます。

 3つ目は、事業ラインに対して財務視点でのアドバイスをすることです。経営層、事業ラインとともに施策の検討主体の一員となることが求められます。例えば、生産地を中国からタイやメキシコに切り替えた場合、財務管理の面では、通貨エクスポージャーの種類、為替リスクの発生場所がこれまでと大きく変わります。そうした新たな課題を予測しながら、機動的に対応していくことが求められます。

 これらの役割を果たしていくために、必要運転資金量や資金残高を通貨別にタイムリーに把握することや、為替ヘッジポリシーの最適化と為替管理手法の見直し、不正リスク抑止への対応、財務管理体制や、効率的な財務業務プロセスなどを確立しておく必要があります。グローバルでリアルタイムな資金管理、リスク管理、各拠点との連携、経営層や事業ラインとの連携、こういった機能やアクションが必要だと考えます。

VUCAの時代に必要性が高まるグローバル財務ガバナンス

 さらに財務部門が新たに担うべき役割として、グループガバナンスの強化があります。現在、コロナ禍において、グループ会社に対して従来どおりの統制が取れなくなっている企業が多くあります。その一方で、グループガバナンスにおける財務領域からのアプローチの必要性は高まっています。

日本CFO協会「事業のグローバル化に伴う財務・リスク管理体制の 実態と課題(2019年5月)/今後、想定される財務リスクの重要度
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 上図は日本CFO協会が定期的に実施している「事業のグローバル化に伴う財務・リスク管理体制の実態と課題」という調査の2019年の結果です。財務リスクの重要度で、内外の不正リスクが1位、2位となっています。実際、2019年には日系上場企業の会計・経理不正が過去最多の70社でした。新型コロナが感染拡大した2020年も58社。5年前までは年間30社前後で推移しており、高い水準で不正が発生しています。もう1つ注目したいのが、オペレーションリスクです。

 下図は、2019年、2020年にグローバル企業で起きた不正事例です。いずれも経営へのインパクトが大きかった事例ですが、全て海外の子会社で発生しています。

グローバル企業の抱える不正リスク
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 こうした不正の影響は、不自然な資金の流れになって、最終的には資金の動きとして表出します。財務業務を高度化することで、不正を抑制できるのです。具体的には、不正の予防的統制と発見的統制、両方の側面から内部統制の強化に取り組むことです。

 コロナウイルス感染症の影響で現地に足を運べなくなり、グループガバナンスも大きく変化しました。現地の内部監査も実際に行く往査ではなく、オンライン監査としているところが大半のようです。リアルな対応をベースとしてきた内部統制について、リモートでの対応が本当に有効か、疑念を抱く企業も多いことでしょう。ただ、今の状況がニューノーマルになる可能性は高く、海外拠点の内部統制の在り方は変わらざるを得ません。