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 IoTを支える通信技術としてLPWA(省電力広域無線通信)の利用例が増えている。国内で商用サービスが始まってから3年ほど経過し、複数が乱立していた規格の一部は淘汰され、その一方で台頭する規格も出てきた。LPWAの現状と展望について、情報ネットワークやIoT関連に詳しい千葉大学名誉教授の阪田史郎氏に聞いた。

 LPWA(Low Power Wide Area)は、「低消費電力」で「広範囲」をカバーする無線センサーネットワーク技術である。Bluetoothと遜色ない低消費電力でありながら、数km以上離れた地点間でデータ通信ができるのが特徴だ。LPWAは独自仕様を用いるものと、携帯電話網を利用するもの(セルラーLPWA)の2種類に大別できる。独自仕様LPWAとして代表的な規格がLoRaWAN(ローラワン)とSigfox(シグフォックス)だ。

 LPWAの詳細は、「経営者のためのIoT技術入門「LPWA」(第1回~第5回)」で解説している。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51831
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52104
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52308
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52547
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52839

徐々に実用例が増えるLoRaWANとSigfox

――LPWAの商用サービスの開始から何年か経ちましたが、現状はどうなっていますか。

 さまざまな実証実験が行われるようになった2017年から3年あまりが過ぎ、実用例が増えてきた。使用するセンサーの数は用途によって数十個から数百個とバラツキはあるが、ある調査によると、国内ではこれまでに1000システムほどが稼働している。

 こうした状況から、LPWAの利用は着実に進んできたと言える。しかし、使われているセンサーの総数がまだ少ないことを踏まえると、「LPWAが広く浸透した」という水準には到達していない。今は急速な活用拡大が始まる前の段階、成長期の入口にようやく差し掛かったところだ。

千葉大学の阪田史郎名誉教授

 海外に目を転じても、だいたい似たような状況である。LPWAの利用例が急速に増えているわけではなく、徐々に使われてきている。

――どんな用途で使われているのでしょうか。

 用途は多岐にわたっている。たとえば、独自規格LPWAのひとつ「LoRaWAN」は、農地の水管理や都市の災害対応のほか、プラントの監視や機械装置の状態監視など、ざっと数えただけでも100件ほどの事例が明らかになっている。駐車場の空き状況をリアルタイムで監視するスマートパーキングでの利用、冷凍庫・冷蔵庫の温度管理への応用、温度・湿度に基づく熱中症のリスク管理など、用途は千差万別だ。米Amazon.comが2019年に発表した無線通信規格「Amazon Sidewalk」もLoRaWANを採用している。