近年、企業経営の現場においてSDGsやESGを踏まえた「非財務要因」の重要性が増している。この点について、「環境と金融」の視点から長年研究を進めてきた環境金融研究機構 代表 藤井良広氏は「この流れはここ数年で一気に進む」と語る。

 なぜ、財務的な評価が難しい「非財務要因」が重要視されているのか。そうした時代を企業が生き抜くために、経営者はどのような視点を備えればよいのか。同氏にインタビューを試みた。

一般社団法人環境金融研究機構 代表理事 藤井良広 氏

企業価値(時価)に影響を与える要因が激変した

――藤井様は「環境金融」という分野の研究を通し、企業が環境面のリスクをはじめとする「非財務要因」をきちんと捉えて財務諸表に反映させることの重要性を説かれてきました。まずは、それがなぜ重要なのか、簡単に教えてください。

藤井 良広 氏(以下、藤井氏) 例えば、事業活動によって公害や環境汚染が起こった場合、その原因となった企業には被害者の方々への賠償責任や原状回復の義務が生じます。そうしたリスクは環境に限らず、社会問題や企業ガバナンスの領域でも同じように発生する可能性があります。従って、企業としてリスクマネジメントを考える上では、それら非財務面のリスクを事前にきちんと把握し、削減に必要なコストを投じる対応をとることが非常に重要です。

 加えて、投資家や金融機関が投融資を行う際にも、投資先企業の非財務要因に対する備えの有無を評価する傾向が強まっています。逆に言うと、環境リスクにしっかり向き合っている企業ほど、投融資資金が集まりやすいともいえるわけです。

――そうした流れは、いつ頃から始まったのでしょう。

藤井氏 私がこの分野の研究を本格的に始めた約20年前は、こうした考え方を実務に取り入れている会社は、日本ではほとんどありませんでした「環境」と「金融」は繋がらない、という反応がほとんどでしたね。

 金融機関が「環境リスクに対する備え」を考慮して投融資することもほぼなかったと思います。企業側も非財務要因をどう財務諸表に反映させればいいかわからない、という状況でした。そもそも、環境や社会的リスクへの対応を財務諸表で表示する概念自体がなかったわけです。

 ところが近年、そうした状況が確実に変わりつつあります。それを示すのが、米国で知的財産関連ビジネスを展開している米オーシャン・トモ社の分析です。

――それはどのような分析でしょうか。

藤井氏 同社によると、1975年におけるアメリカ主要企業の時価総額に及ぼす影響度は、約80%が財務要因で、約15%が非財務要因でした。しかし、2015年には比率がきれいに逆転し、約80%を非財務要因が占めています。さらに2020年には90%にまで上昇しています。

米・主要企業の時価総額には、財務要因以上に非財務要因が大きな影響を及ぼしている (PHOTOGRAPH BY Jeffrey Blum / UNSPLASH)

 ここでいう非財務要因には、ESG以外の知的財産の評価等の将来、利益を生み出す無形資産も含まれます。しかし、環境リスクや社会的リスクに対する対応が、投融資において重視されていることは間違いないでしょう。要は投資家が企業を評価する観点が、40年前とは大きく変わり、現在の利益よりも、将来のリスクに移ってきているわけです。

 そして2017年、その流れを世界にはっきりと示すできごとが起きました。