本コンテンツは、2021年3月25日に開催されたJBpress主催「第5回 ワークスタイル改革フォーラム」Day2のセッションⅠ「ニューノーマル時代に求められる企業の健康管理改革」の内容を採録したものです。

株式会社iCARE
取締役CRO
中野 雄介 氏

コロナ禍以降、メンタルヘルス対策の重要度が増している

コロナ禍でテレワークとオフィスワークが混在するハイブリッドの環境が1年以上経過し、今後の見通しも立ちにくい状況が続いています。企業の人事担当にとって、従業員の状況が把握しにくい中、関心が集まっているのが従業員のメンタルヘルスです。

 当社では企業の従業員の健康相談を行っており、この相談内容を調査した結果、Beforeコロナの2019年11月~2020年1月の3カ月とWithコロナに入ってからの2020年2月~4月の3カ月を境に、メンタルヘルス関連の相談が大幅に増加していることが分かっています。

iCAREに寄せられた健康相談内容の変化
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 メンタルヘルスに関して人事担当がまず注目すべきは、従業員が感じている「孤独感」です。メンタルの不調に関する相談の中では相談数が最も多く、テレワークにより雑談が減るなど、コミュニケーションの減少が主な原因となっています。

 ご存じの方も多いと思いますが、孤独感は大ごとに発展する可能性を秘めた問題です。パフォーマンスの低下をはじめとし、休職や退職といった最悪の事態も考えられます。メンタルヘルス対策においては、孤独感を感じている従業員をいかにウオッチしていくかが重要になります。

iCAREに寄せられた健康相談の事象と原因
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 多くの企業で行われているメンタルヘルス対策を幾つかご紹介します。

 最も多いのは「短いやりとりで誰かと交流する時間をつくる」です。チャット形式で会話する機会を設けたり、オンライン相談窓口を設置したりする企業が増えています。こうした交流の中では、あえてしっかりあいさつをすることが重視されています。

 上司や同僚、他の部署の上長との面談など「タテ・ヨコ・ナナメの1on1を促す」という取り組みもあります。ここでは近況など自分について語るのがポイントです。

 業務に関しては「情報共有の頻度アップ」や「分業で協業する」などが挙げられます。分業においては、業務プロセスの透明性を確保し、信頼して任せる傾向があります。

要諦は課題の早期発見と対処、ストレスチェックだけでも対策は可能

 ここで私から1つ問題提起をします。企業の人事の方から相談を受ける際、自社のメンタル不調者をゼロにしたいと言われることが多々あります。この考え方は誤りです。世の中のがん患者をゼロにする方法が存在しないのと同じで、メンタル不調者をゼロにする方法も誰にも分かりません。

 重要なのは、メンタル不調者をゼロにすることではありません。課題を早く見つけて早く対処する環境づくりが、メンタルヘルス対策の要諦です。人事の皆さんにはこの事実を深く理解していただきたいと思います。

 では課題はどうすれば見つけられるのでしょうか。実は、2015年に始まり多くの企業で取り入れられているストレスチェックを正しく活用するだけで十分に見つけられます。ここではストレスチェック集団分析結果を活用した事例を2つご紹介します。

 1つ目は、ストレスチェックの結果の推移を活用した事例です。ストレスチェックには業務内容や対人関係、職場環境、スキルなどの項目別に57問の質問があり、それぞれの結果は表の上で色分けする等して過去の結果と比較できるようになっています。つまり、とある部署で良好だった結果が徐々に悪化しているといった変化から、部署内の異変を察知できるわけです。

 ある企業では、結果の変化から、原因がマネージャーの交代であることを突き止めました。早期に原因が発見できたため、大きな問題に発展する前の対処にも成功しています。

 2つ目は、ストレスチェックの結果を詳細に分析した事例です。ある企業の分析で、女性が睡眠不足に陥っている割合が高いことが分かりました。そこでさらに、睡眠に関する質問と生産性に関する質問を「よく眠れないAND物事に集中できない」「よく眠れないAND仕事が手につかない」などといった形で組み合わせ、該当する人数や割合を算出する詳細な分析を行っています。

 その結果として分かったのが、睡眠障害が原因で仕事の生産性に支障が出ていると考えられる25歳~55歳の女性社員が多いという実態です。

ストレスチェック結果の詳細分析
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 この2つの事例から分かることをまとめると「定期的なストレスチェックを行うだけで、メンタルヘルスに関する問題は十分に追える」「詳細に分析すれば、メンタル不調および生産性低下につながる原因も分かる」ということになります。分析の精度を高めるには、ストレスチェックは少なくとも半期に1回、できれば四半期に1回の実施をお勧めします。