本コンテンツは、2021年3月24日に開催されたJBpress主催「第8回DX フォーラム」のセッション「DXに立ち向かう、手法としてのプロジェクトマネジメント」の内容を採録したものです。

株式会社マネジメントソリューションズ
PMO ONLINE事業部 事業部長
小宮 啓太郎 氏

DXプロジェクトがうまくいかない理由

 当社、マネジメントソリューションズ(MSOL)は「PMO(Project Management Office)」というプロジェクトマネジメントの実行支援、プロジェクトマネジメントコンサルティング、トレーニングを行っている会社です。「PMO」とは、プロジェクトが円滑に進むように、さまざまな手法を用いて、部署やチームの壁を超えて支援を行う組織のこと。主に、プロジェクトオーナーやプロジェクトマネージャーの意思決定を支援、促進することがミッションとなります。

 ボストンコンサルティンググループが発表した「デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査」によると、トランスフォーメーションに成功した日本企業は全体のわずか14%。世界各国の平均は30%という中で、とても低い成功率となっていることがわかります。DXに臨もうとプロジェクトを立ち上げてもうまくいかない状況を、まずは何とかせねばなりません。

 DX プロジェクトに取り組む場合、そもそもプロジェクト自体をどのように進めていけばいいのでしょうか。DXだけではなく、日本のITプロジェクトについてもご説明します。

 2018年に「日経コンピュータ」が行った「IT プロジェクト実態調査」によると、プロジェクトの成功率は52.8%。2008年度の調査では、31.1%でした。ITプロジェクトに関わったことがない人であれば、これはかなり低い数値といえるのではないでしょうか。とはいえ、先程のDXプロジェクトの成功率と比較すれば良い数値ですし、2008年から見ても成功率は上がっているように見えます。しかし、現在も半数近くのプロジェクトは失敗しているのが現実です。

 では、なぜプロジェクトは失敗してしまうのか。当社としては次のように考えています。

プロジェクトの失敗は、なぜ起こるのか
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 まず挙げられるのが「計画そのものがずさんである」という原因です。プロジェクトの工数見積もり自体が雑だったり、詳細スケジュールや各メンバーの役割が明確に決まらないまま進めていたりすることが代表的な例として挙げられます。

 そのままプロジェクトを進めると、次に出てくるのが「状況が見えない」という問題です。計画がずさんなままだと、プロジェクトを進めていくうちに現状の進捗や課題の状況がすぐにブラックボックス化してしまいます。これにより解決すべき問題が埋もれ、意思決定の遅れを生じさせます。

 続いて発生するのは、「問題を解決できない」という状況です。ここでは、そもそも生まれてしまった課題自体に、意思決定者がなかなか気づけません。そればかりか、問題自体も同時多発的に発生すると何から手をつけていいかわからなくなります。解決のために必要な関係者も調整できていないため、専門家の意見も聞けない状況であったりします。結果的に原因がつかめず、意思決定自体ができない状況に陥ってしまいます。

 最終的には、目の前のことばかりに追われる毎日になってしまいます。そういった場合、現状の課題にかかりきりとなり、後発する新たな課題を後手に回すことになってしまいます。

 また、そこで何とかプロジェクトを終わらせようとしても、その時に得た教訓を組織に残す仕組みがないと、次のプロジェクトでまた同じ失敗を繰り返すことになってしまいます。こういった「負の連鎖」がつながると、プロジェクトは容易に失敗をしてしまうと考えています。

DXに立ち向かうための「プロジェクトマネジメント」

 では、負の連鎖を生まないためにはどうすれば良いか。一言で言うと「マネジメントをしっかり機能させること」に尽きます。具体的には以下の通りです。

マネジメントが機能すれば、プロジェクトは成功する
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 まずは、「しっかりとした計画を立てる」こと。例えば「勘と経験だけに頼らない根拠のある工数見積もり」や「統計情報を使った現実的な計画」のことを指します。昨今、そういった情報は独立行政法人情報処理推進機構(略称:IPA)のWebサイトや、インターネット上に多数存在しています。そして、初期のうちにリスクを洗い出し、認識合わせをしていくことも大切です。これによって、リスクに対する先手を打つことができます。

 次にやらねばならないのは「状況の可視化」です。現在の進捗や課題の状況を常に可視化しておくことで、問題の早期発見を促します。それらの仕組みが定着してくると、迅速な問題解決が可能になってきます。初期に洗い出したリスクの対策によって、関係者を事前に巻き込むことができていれば、専門的な解決が必要な場合にも後手に回ることなく対処できます。こうすることで、スピード感を持ったプロアクティブな意思決定をしやすくなります。

 プロジェクトがうまくいった場合、それで終わりにしないことも重要なポイントです。うまくいった点・うまくいかなかった点をしっかりと振り返り、教訓として抽出し、組織として保存することが大切です。それだけではなく、管理する部署をしっかり設け、責任を持って次のプロジェクトへその教訓を渡します。そうすることで、新たに始まるプロジェクトは、過去の教訓を生かすことができます。これがプロジェクトを成功させるために必要なマネジメントです。