PHOTOGRAPH BY freddie marriage / UNSPLASHPHOTOGRAPH BY freddie marriage / UNSPLASH

 コロナ禍で急なテレワークの導入を決めた後、従業員の労働生産性の低下に悩む企業は多い。在宅勤務(WFH:Work from Home)を含めた柔軟なワークスタイルを続けるべきか、オフィス勤務に戻すべきか、経営者は難しい判断を迫られている。

 しかし、そもそもこうした悩みの前提となる、自社の生産性を正確に捉えている企業はそう多くないのではないだろうか。リモート環境でのマネジメントを求められる時代、経営者は従業員の生産性をどのようにとらえ、最善の判断を下すべきなのか。経済産業研究所(以下、RIETI)の所長・CROで『生産性 誤解と真実』(日本経済新聞出版)の著者である森川正之氏に話を聞いた。

生産性低下を抑えるために「仕事の配分をいかに見直すか」

独立行政法人経済産業研究所 所長・CRO   森川 正之 氏独立行政法人経済産業研究所 所長・CRO 森川 正之 氏

―― 在宅勤務を継続するか否か、今の社会状況では判断に迷う経営者も多いと思います。その判断材料の一つに「生産性」が挙げられると思いますが、そもそも従業員の生産性をどのようにとらえればよいのでしょうか。

森川 正之 氏(以下、森川氏) 在宅勤務時の生産性については、RETIが公開したディスカッションペーパー*1に調査結果を掲載しています。この調査では、オフィスの生産性を100としたとき、あなたの在宅勤務の生産性はどのくらいですか、という聞き方をしています。結果として、在宅勤務の平均値は61、中央値でも70程度ですので、オフィス勤務の時と比べると3~4割程度下がっているわけですね。

*1 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20j034.pdf

(出典)森川正之 (2020). 「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」, RIETI Discussion Paper, 20-J-034.(出典)森川正之 (2020). 「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」, RIETI Discussion Paper, 20-J-034.

 一方で、「自宅の方が生産性は高まる」と考える方も一定数います。RIETIの職員ほぼ全員に対してインタビュー調査をした際には、120~150と回答する人もいました。ただし、全体から見るとごく少数なので、企業全体の生産性は確かに下がっていると思われます。

―― 在宅勤務で生産性が下がる要因としては、どのようなことが挙げられるでしょうか。

森川氏 調査の結果、最も多かったのは、「職場のようにフェイス・トゥ・フェイスでの素早い情報交換ができない」(38.5%)ということ。そして、「自宅はパソコン、通信回線などの設備が勤務先よりも劣る」(34.9%)、「法令や社内ルールによって、自宅ではできない仕事がある」(33.1%)が続きます。

(出典)森川正之 (2020). 「在宅勤務の生産性を低下させる要因」, RIETI Discussion Paper(出典)森川正之 (2020). 「在宅勤務の生産性を低下させる要因」, RIETI Discussion Paper

 4番目に多い「法令や社内ルールによるものではないが、自宅からでは現実にできない仕事がある」(32.5%)という回答は、おそらく人事や経理、調達など、紙媒体の資料で過去の情報を参照しなければならない業務だと思います。「自宅だと家族がいるので仕事に専念できない」「仕事できる自分専用の部屋がない」というように環境面が要因と感じている方も見受けられます。