アイ・ティ・アール会長/エグゼクティブアナリストの内山悟志氏(オンライン会議によるインタビュー画面より)

「失われた30年」という言葉があるように、平成の時代は変わることができなかった。その日本が変わるにはどうすればよいのか。令和の時代に日本の産業界がとるべき指針を示す。

――新型コロナウイルスの感染拡大で、企業のデジタル化への取り組みには変化がみられたのでしょうか。

内山 悟志氏(以下、内山氏) アイ・ティ・アールでは、緊急事態宣言が出ていた4月24~27日に緊急アンケートをしました(対象は、国内企業のIT戦略・IT投資の意思決定に関与する担当者、回答は1370件)。その結果、コロナによってデジタル化は「大いに加速する」「やや加速する」を合わせて71%に上り、世界的な感染拡大が、企業活動にとってのITの重要性を再認識させるものとなりました。

 コロナ禍で行われたIT対策の内容については、皆さんご存じの通り、テレワーク導入、リモートアクセス環境の整備などです。また今後3カ月以内に実施する対策については、中長期的なテレワークの実施が必要との見方から、PC、モバイルツールやネットワークインフラの増強が多くなっています。

 現在、調査から3カ月強がたっていますから、実はこれからが、その先の本丸となるべき施策の実施に入っていきます。それには社外取引文書(契約書など)や社内文書(申請書など)の電子化、まさに業務プロセスの電子化といったテーマが含まれます。そして最終的には、時期は未定だがやらなければいけないなと考えられている、基幹系システムのクラウド化などが挙げられています。

 つまり、コロナ対策のIT施策は、緊急事態宣言下と、その後から現在までの段階、そして今後のウイズコロナ時代と大きくは三段構えぐらいで考えられているのです。

――コロナによるIT投資の増加が、最終的に企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向かうと考えられますか。

内山氏 先ほどよりも長期で考えて、アンダーコロナ、ウイズコロナ、アフターコロナという3段階を横軸にして、デジタルへの適応力のレベルを縦軸にして考えてみます。これでいくと、テレワークを快適にするところまでは、ほぼ企業が対応はできたけれども、これからしっかりやっていこうとすると、社内業務プロセスのデジタル化や、製造業であればサプライチェーンのデジタル化などを目指さなければいけません。ここはほとんどの企業が、1年といったある程度時間をかけて取り組むべき、必須の対応だと思っています。

 そして、その先にビジネスモデル自体もデジタル化していくという大きなテーマがあります。ここまで行ける企業は、残念ながら非常に少ないのではないかと思っています。というのも、一部の企業で、緊急事態宣言が解除になって以降、デジタル化が逆行しているところも出てきています。「全員、会社に戻ってきなさい」「会議も対面でやります」「営業も訪問しなさい」「紙の書類にハンコを押しなさい」・・・といった具合に元に戻ろうとしているのです。

 コロナを機に、DXについて前のめりになって前進させようと意思決定した企業と、逆に後戻りさせてしまった企業の二極化が起きています。それが、これからますます顕著になってくると感じています。

――それはなぜでしょうか。

内山氏 なぜDXをやっていかなくてはいけないのか。それを考えるときに、私は日本人の「変わりたくない。変わってしまったら元通りに戻したい」という考え方が深く関わっていると思います。震災にしても、ウイルスにしても、一時的な緊急事態と捉えてしまうと、「ただ頭を低くして、嵐が通り過ぎるのを待てばいい」という戦法をとってしまいがちです。多くの日本の企業にはその体質が備わっていると思います。

 一方で、デジタル化の流れというのは、一過性のものではなくて、確実に世の中が変わろうとしている現象です。例えば自動車や鉄道が発達してきたことで、飛脚やかご屋などの仕事がなくなったのと同じように、後戻りはしません。

 この、元通りになるものと、元に戻らず大きな流れになるものを混同して捉えてしまうところが、日本人と日本企業にはあると思っています。