CES 2020、ビークルテクノロジー(自動運転)の展示ホールで存在感を示したクアルコムの展示ブース(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役)

 CES 2020ではGAFA後のテック企業の覇権の構図が垣間見えただけでなく、自動運転を巡る新旧のプレイヤーの思惑も交錯した。

 特に大きなクサビを打ち込んだのが、前回取り上げたトヨタ(「WOVEN CITY」構想)と今回のテーマである米クアルコム(Qualcomm)である(前回記事:「主役なき『CES 2020』で見えたGAFA後の覇権の構図」)。

 CES 2020開催前日の2020年1月6日、クアルコム(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)の記者会見で社長のクリスチアーノ・アーモンが登壇し、旗艦製品「Snapdragon」をベースにした「Qualcomm Snapdragon Ride」を投入し、本格的に自動運転向けの半導体ビジネスに参入することを宣言した。

 クアルコムと言えば、スマートフォン向け5G半導体(圧倒的にスピードが出るミリ波対応)の供給では実質的に世界シェア100%であり、まさに今をときめく絶対王者(注)である(中国のファーウェイ、台湾のメディアテックの半導体は、同じ5Gでもスピードの遅いSub-6対応)。

 しかもクアルコムにとってみれば、昨年(2019年)末にスマートフォン向け5G半導体の新製品「Snapdragon865」(ハイエンド向け)、「Snapdragon765/765G」(ミドルレンジ向け)をリリースしたばかりというタイミングであり、今回の発表は否応なく注目を集めることとなった。

「Qualcomm Snapdragon Ride」はスマートフォンで培った省電力技術を活かし競合他社の製品に比べて2倍もの電力効率を持つことが強みである。さらに最上位モデルでは最大700 TOPS(TOPSはtrillion operations per second:1秒間に700兆回の演算を処理できる能力)ものAI推論性能を誇り、レベル4の自動運転(特定条件下での完全自動運転)に対応できる能力があるという。

 また半導体単体としてだけではなく、ソフトウエア開発キットの出荷も予定されており、クアルコムとしては自動運転向けのトータルソリューションを提供、2023年には「Qualcomm Snapdragon Ride」を搭載した自動運転車が公道を走ることを目指すとした(参考:「Qualcomm自動運転」のプロモーションビデオ)。

(注)昨年春にライバルのインテルがスマートフォン向け5G半導体の開発を断念、その後、部門ごと10億ドルでアップルに買収された。時を同じくしてアップルもクアルコムとのロイヤルティをめぐる長年の係争に区切りをつけたことから、当面は(少なくとも自社開発ができるまでは)アップルもクアルコムからスマートフォン向け5G半導体を調達する流れになりそうだ。つまり、クアルコムはライバル企業の「敵失」にも助けられて、ゲームの序盤戦から独走態勢を固めたという印象が強い。