Creww Founder and CEO 伊地知天氏

 大企業とスタートアップ企業とが巡り合い、繋がり合うためのプラットフォームを提供して双方の成功と成長に貢献していく。それが2012年創業のCrewwが展開する“crewwコラボ”だ。オープンイノベーションの時代が本格化しつつある今、その後押しを担うアクセラレーションの1つのプロトタイプとも言えるサービスだが、創業当時の日本にはどこにも存在しなかったスタイルだ。創業者の伊地知天氏(以下、伊地知氏)は、どんな発想からこれを開始し、発展させてきたのか。また、昨今のオープンイノベーションの動向をどう見ているのだろか。

大企業とスタートアップ企業を繋ぐ

 アメリカやフィリピンで次々に会社を立ち上げ、シリアルアントレプレナーとしての実績を重ねていた伊地知氏が日本へ戻ろうと決意したきっかけは、2011年の東日本大震災だった。「少しでもこの国の復興の役に立ちたい」との思いから帰国。その目に映った日本の実状は、決して楽観できるものではなかったという。

 2000年前後にネット系ベンチャー企業が巻き起こした旋風は、結局「ネットバブル」と称されてはじけ散る。その後、日本経済は徐々に回復への道を歩んでいたが、この道筋に水を差したのが2008年のリーマンショックであり、追い打ちをかけたのが2011年の東日本大震災だった。経済ばかりでなく、政治、経済すべての面において不安が広がっていた。

 コンサルティングファームは、続々と日本復興のためのシナリオを発表していたが、大企業のビジネスの現場では「守りの経営戦略」の実行に追われていた。お金(投資)を軸に企業再生やスタートアップを支援するベンチャーキャピタルやPEファンドなども、震災という想定外の事態を前に混迷を極めた。そんな状況の下、帰国したのが伊地知氏だった。

「被災地を訪れて強く感じたのは『復旧ではなく復興しなければいけない』ということ。目先の支援ではなく、すべてを失った方々が、将来に向けて継続的な希望を持てるようなビジネス環境を作らなければならない。そのためには、まったく新しい産業を興していける土壌づくりが不可欠だと思いました。具体的に言えば、市場に新風をもたらすようなスタートアップが次々に立ち上がり、成長していけるようなエコシステムが必要だと考えたのです。しかし、欧米ならば当たり前に存在していたベンチャーサポートの環境が日本ではまだ完全に整備されているとは言えない状態でした」

 伊地知氏は、既存のビジネスモデルを踏襲するようなベンチャーと、革新的な事業を志向するベンチャーとを分けて捉える。そのうえで、前者を支援するような環境や制度、枠組みはあるが、後者を育成していくようなエコシステムが当時の日本にはなかったのだと説明する。

「スタートアップエコシステムの構築に必要なものは『ヒト(人材)』『カネ(資金)』『成長機会』。有望なスタートアップならば、ベンチャーキャピタルが資金を支援してくれる可能性はありますが、それを元に良い製品やサービスを創ることができたとしても、その製品やサービスを実際に検証してみなければ成功するか分かりません。事業を成功させるには資金以外の様々な要素も必要となるため、どうすれば、スタートアップが『成長機会』を得ることができるのか?と考え、新規事業の創出を目的とした”crewwコラボ”を始めました。スタートアップは自社の成長を大幅に加速することができ、一方で大企業は、リスクやコストを軽減して短期間で新規事業の足掛かりを得ることが可能になるため、双方にメリットが生まれる仕組みとなっています。

 10~20年前に比べれば増えたとはいえ、日本の起業率は世界的に見ても低く、成功する確率はさらに低い。カネの支援ばかりでなく、ヒトや成長機会の面でもサポートするベンチャーキャピタルやインキュベーターもなくはなかったが、このサービスが示した「大企業とスタートアップを繋ぐ」という斬新な着眼はたちまち反響を呼んだ。

 2010年代に入ってから、家電業界の急減速を筆頭に「ものづくり大国ニッポン」という金看板に疑問符がつけられ始め、グローバル競争の激化の中で、「既存の考え方を根底から変革しなければ」という気運が高まりつつあった。現状維持に依存するのをやめ、抜本的改革を目指そうとした時、洞察力ある経営陣たちの目はすでにスタートアップに向けられていたのだろう。

 事実、伊地知氏は”crewwコラボ”が反響を呼んだ要因の1つとして、大企業の経営陣が危機意識を募らせていた点を挙げる。既存事業に限界を迎えている企業はもちろん、そうではない企業の経営陣も「今のままではいけない。早急に新規事業を創出し、確立しなければ生き残れなくなる」という危機感を抱いていたタイミングが、まさに2012年だったのだ。成長支援を必要としていたスタートアップと、変革を目指しながらも社内だけではどうにもならないと感じていた大企業の双方が「大企業とスタートアップを繋ぐ」このサービスに期待を寄せた。