(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年12月10日付)

イラン外相(左)とダマスカスで会談したシリアのアサド大統領(12月1日、提供:Syrian Presidency Telegram page/AP/アフロ)

「アサドは去らねばならない」

 バラク・オバマは2013年にこう言った。それから10年以上経った今、シリアの独裁者が去った。

 だが、米国と欧州に広がる雰囲気は、祝賀ムードというよりは警戒感だ。

中東の独裁者失脚の歴史

 中東の近年の歴史は、慎重になる根拠を与える。

 イラクのサダム・フセインやリビアのムアマル・カダフィといった他の独裁者の失脚の後には、平和と安定ではなく暴力的なカオスが続いた。

 アサドを倒した武装組織「シャーム解放機構(HTS)」が米国や国連、多くの欧州諸国からテロ組織に指定されていることが先行きへの不安に輪をかける。

 2014年の過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の台頭もまだ記憶に新しい。

 声に出しては言わないものの、欧米諸国は恐らく、HTSが最も強大な勢力になるシリアの新秩序の不確実性よりは、アサドという既知の悪魔を好んだだろう。

 欧州のある首脳は「改心したジハード(聖戦)主義者というのは、私には言葉の矛盾のように聞こえる」と語る。

 アラブ首長国連邦(UAE)は先週、アサドへの支持を明確に表明した。

 アサド政権を支援してきたレバノンの民兵組織ヒズボラを破壊することによってアサドの問題を著しく膨らませたイスラエルでさえ、新たな体制よりは旧来の体制を好んだろう。

 イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフに近い学者のヨラム・ハゾニーはHTSを「アルカイダに近い怪物」と呼び、その成功は「大惨事」だと言った。

 実際、HTSを支持する唯一の強力な地域大国はレジェップ・タイイップ・エルドアン率いるトルコの政府だ。