国連総会の一般討論演説に臨む尹錫悦大統領(写真:ロイター/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 2022年9月は世界の要人たちがせわしない。

 19日にはエリザベス2世の国葬が行われ、21日から27日までは第77回国連総会一般討論演説が、そして27日には安倍晋三元首相の国葬儀が執り行われる。

 安倍元首相の国葬儀に韓国からは韓悳洙(ハン・ドクス)首相が参列することになっている。そのため、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が日本にやってくることはないが、同年5月に大統領に就任したばかりの尹大統領は世界の要人たち同様、9月は忙しい。

 彼は2021年3月まで検察総長だった人物だ。現役検察官だった頃と今とでは打って変わったような生活だが、最近はようやく政治家らしい、大統領らしい生活を送っているように思う。

 だが、尹大統領が動けば動くほど彼の大統領としての能力不足が露わになり、韓国国民から批判の声が高まっている。「お願いだから何もしないでくれ」と言われる始末だ。

 それでは、彼が今回の外遊で何を“やらかした”のか。

 エリザベス2世の国葬のために英国を訪れた尹大統領。彼は国葬出席のために訪英したにもかかわらず、英軍慰霊碑献花式とエリザベス女王弔問式を欠席、チャールズ3世とのレセプションだけに出席した。

 欠席した理由について、一部メディアは「英王室側が車両を用意してくれなかった』という韓国大統領府の説明を報じた。尹大統領は当然、専用自動車を用意されるものと考え、他の要人たちと英国側が用意したバスに乗り合うことを拒否したのだ。

 だが、英国側は尹大統領に対して4、5台の車両を用意したという。このことが明らかになると、「英国が勝手に時間を変更して弔問できなかった」と韓国側は説明した。

 他にも、韓国広報首席は「英国側から交通事情のために18日遅くに到着した首脳たちは19日に記帳するよう案内を受けた」とも説明した。だが、尹大統領の置かれた状況と、大統領府の説明はどこかかみ合わない部分がある。

 尹大統領は18日午前9時過ぎに韓国を発ち、午後3時40分に英国に到着した。空港からウエストミンスター寺院までは60キロ離れており、順調に着いたとしても午後5時30分だ。チャールズ3世とのレセプションが6時開始だったから、それ以前の予定には完全に間に合わない。

 そのため、一部議員からは「尹大統領の遅刻と、広報首席の嘘の釈明は総体的な難局だ」と批判の声が上がった。さらには、韓半島政治・経済専門家として名高い英サセックス大学のケビン・グレイ教授からも、「尹大統領は一体何のために来たのか。韓国側は交通統制のせいだと言うが、尹大統領だけが参加できないよう英国が統制したというのか」と嘲笑された。

 フランスのマクロン大統領夫妻は会場まで徒歩で向かった。天皇皇后両陛下は英国側が用意したバスに乗車され、時間に十分な余裕をもって会場入りされた。

 他国の要人たちは何の文句も言わず、英国の指示に従って滞りなく弔問したのに、韓国はどうだろう。尹大統領とその側近たちは“弔問外交”に意気込んでいたのに肝心要の弔問すらできず、それどころか自分たちのミスを主催者側に擦り付けた。あまりにも無礼だ。

 ついでに言うと、尹大統領はエリザベス女王が亡くなった際、自身のツイッターに哀悼の意を表したが、「Elizabeth Ⅱ」を「Elisabeth Ⅱ」と名前を打ち間違えたまま投稿した。

 加えて「善行」を意味する「deed」には「s」をつけず、エリザベス女王が生涯たった1度の善行しかしなかったような意味でも投稿した。このようなことが国葬前にあったから、彼に対する国民の風当たりは一層強かった。