今年5月24日、インドネシアのアチェ州西アチェのモスクの様子。ラマダン(断食)明けの祝祭の祈りを捧げるためにイスラム教徒が訪れている(写真:ロイター/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚智彦)

 インドネシア・スマトラ島北スマトラ州の州都メダンにあるメダン地裁は8月4日、イスラム教の聖典である「コーラン」を破いて捨てたことが刑法の「宗教冒涜罪」に当たるとして、実行犯の男性被告44歳を禁固3年とする実刑判決を下した。

 検察側、弁護側が共に判決を受け入れることを表明していることから、被告男性に対する禁固3年の刑は確定するものとみられている。

 人口約2億6700万人のインドネシアはその88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教徒人口を擁する国家。しかしながらイスラム教を国教とはせず、キリスト教やヒンズー教、仏教なども認めることで「多様性の中の統一」や「寛容」を国是として掲げ、多民族、多言語、多文化、そして多宗教の国家としてアイデンティティーを築いてきた経緯がある。

 しかし近年、圧倒的多数を占めるイスラム教徒の規範、習慣、習俗、宗教観が、他宗教に対して最優先される傾向が政治経済社会文化の各分野で強まっている。それに伴い、イスラム教の急進派や保守派、そしてイスラム教を標榜するテロ組織などの傲岸不遜な独善主義、跳梁跋扈を許す気運も強まりつつある。

 それは取りも直さず「多様性と寛容」の中で育まれてきたインドネシア人としてのアイデンティティーの危機ともいえるが、そうした客観的で冷静な見方も「アッラーフ・アクバル」というイスラム教徒の神アッラーを称える言葉の大きさ、勢いの前に「風前の灯」のごとくかき消されようとしている。今回の判決もまさにその現状を象徴するようなものと言ってよい。

モスクの中でコーランを破ってゴミ捨て場に廃棄

 メダン地裁のトゥンク・オヨン裁判官は8月4日、刑法156条の宗教冒涜罪に問われていたドニ・イラワン・マレー被告(44)に対して「禁固3年」(求刑同4年)の実刑判決を言い渡した。判決文の中で同裁判官はドニ被告が2月13日にメダン市内にあるイスラム教施設「アル・マシュム・モスク」内の備品であるイスラム教聖典「コーラン」の表紙を破り、中のページを両手で引き裂いて沐浴場にあったゴミ捨てに一部を廃棄したこと、さらに残りの引きちぎったページをモスク外に持ち出し、道路にまき散らして逃走した行為を「宗教冒涜罪」に当たると認定した。

 同時に公判中のドニ被告の真摯な態度を理由に求刑禁固4年に対し禁固3年の判決としたと判決理由を明らかにした。

 ドニ被告はモスクから逃走したものの、近所の住民にその「非イスラム的行動」が目撃され、通報を受けた地元警察によって逮捕、起訴されていた。