イラクの首都バグダッドで行われた反政府デモに集まった人たち(2019年11月19日、写真:AP/アフロ)

(藤 和彦:経済産業研究所 上席研究員)

 米WTI原油先物価格は、米中貿易協議に関する思惑に影響されながら軟調気味に推移している(1バレル=50ドル台後半)。

 原油市場を巡る情勢を振り返ってみよう。

米国の原油生産は伸びるのか?異なる予想

 市場関係者の間で意識され始めたのは12月5日に開催されるOPEC総会である。

 OPECと非OPEC産油国(OPECプラス)は、現在120万バレルの協調減産を実施している(2020年3月まで)が、「12月の総会でさらなる減産合意の決定がなされるかどうか」が関心の的となっている。

 OPEC事務局は11月14日、「2020年の供給過剰の状態は以前の予測よりも縮小される」との見通しを示した。協調減産を牽引しているサウジアラビアも「合意枠を超過して生産しているイラクとナイジェリアに対して圧力を強める」方針であることから、「OPECは追加減産に消極的である」との見方が強まっている。

 国際エネルギー機関(IEA)も11月15日、2020年の原油市場の見通しとして、「OPECプラスは、その他の産油国の生産量が増大することから厳しい局面に追い込まれる」という内容を発表した。IEAが原油生産量が増加すると予測しているのは、米国やブラジル、ノルウエー、ガイアナの4カ国である。4カ国を合わせた2019年の増産量は日量180万バレルだったが、2020年は日量230万バレルになるとされている。これに加えて世界の原油在庫が高水準で推移することから、IEAは「2020年の市場は落ち着いた状態が続く可能性が高い」として、原油価格は今年と同様に低位で安定すると見積もっている。

 OPECとIEAの見解が異なっているが、その主な要因は2020年の米国の原油生産量の伸びに対する評価である。

 OPECのバルキンド事務局長は11月13日、「2020年のシェールオイルの供給の伸びは鈍化する」との見方を示した。将来の原油生産の指標とされる米国の石油掘削装置(リグ)稼働数は減少を続けており、前年に比べて4分の3の水準にまで落ち込んでいる。投資家が要求する利益を生み出すために設備投資などの経費削減に追い込まれている状況が続いている。