サウジアラビアのエネルギー相を解任されたハリド・ファリハ氏(2017年1月12日撮影、写真:AP/アフロ)

(藤 和彦:経済産業研究所 上席研究員)

 米WTI原油先物価格はこのところ上昇基調にあり、1バレル=50ドル台後半で推移している。

 まず供給サイドの動きから見てみよう。

 8月のOPECの原油生産量は今年に入り初めて増加した。ロイターによれば、前月比8万バレル増の日量2961万バレル、ブルームバーグによれば、前月比20万バレル増の同2999万バレルとなっている。イラクやナイジェリアなどの増産が主な要因である。サウジアラビアの生産量も夏場の国内需要増に応えるために若干増加したが、減産合意より日量50万バレル以上少ない水準を維持している。

 OPEC非加盟国の雄であるロシアの8月の原油生産量も前月比14万バレル増の日量1129万バレルとなり、減産合意の水準を上回った。

 一方、世界第1位の原油生産国となった米国の生産量はこのところ横ばいで推移している。足元の原油生産量は日量1240万バレルと過去最高に近い水準であるが、日量100万バレルを優に超えるペースで増産してきた過去3年間の勢いは失われつつある。資金繰りに苦しむシェール企業が掘削予算の削減やリストラを進めている(9月8日付OILPRICE)ことから、石油掘削装置(リグ)稼働数は2017年11月以来の水準にまで減少した。

 貿易戦争の激化で中国向けの天然ガス輸出が急減したことにより、米国内の天然ガス価格が大幅に下落している(8月29日付日本経済新聞)ことも、シェール企業の経営を圧迫している。ウォール街では「再びシェール企業の大量倒産が起きる」との見方が強まっている(9月3日付ZeroHedge)。

先細る世界の原油需要

 OPECなどの増産にもかかわらず「シェール企業の生産縮小で世界の原油需給が逼迫に向かう」との思惑が原油価格の押し上げ要因となってきているが、需要面での先行き不透明感が上値を抑えるとの構図に変わりはない。

 世界最大の原油需要国である米国ではドライブシーズンのピークが過ぎたが、景気減速の影響からか、足元の原油処理量の落ち込み幅が過去10年間で最大となっている(8月30日付Zerohedge)。

 世界第2位の原油需要国(世界最大の原油輸入国)である中国の輸入量は、今年(2019年)4月を最後に日量1000万バレルを越えていない。9月の原油輸入量も前月に比べ約3%増加したものの日量997万バレルだった。

 世界第3位の原油需要国であるインドの経済成長にも急ブレーキがかかっている(8月31日付日本経済新聞)。