中国人民銀行総裁の易綱(2019年4月25日撮影、写真:ロイター/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 中国が11月に独自のデジタル通貨を発行するという特ダネを8月27日にフォーブスが放ち、話題になっている。中国の中央銀行・人民銀行が約5年の年月をかけて研究していたデジタル通貨(暗号通貨)「CBDC」(通称「デジタル人民元」)が11月11日、中国で言うところの「独身者デー」のバーゲンから解禁される。しかも四大銀行だけでなく電子マネーのアリペイを発行しているアリババや同じく電子マネーのウィーチャット・ペイを発行しているテンセント、中国銀聯など7つの機構を通じて発行される、という。

 人民銀行総裁の易綱は9月2日、深圳市で記者会見を行い、世界で初の法定デジタル通貨テストを深圳で行うと発表しており、おそらくはフェイスブックの暗号通貨リブラよりも先に実用化を目指すつもりだろう。デジタル人民元は、中国の金融を新たなステージに押し上げるものなのか。

フェイスブックの「リブラ」に対抗か

 まずフォーブスの特ダネを簡単に紹介しよう。米フォーブス誌は、2人の関係者からの情報として、中国が11月11日に独自の暗号通貨を発行すると報じた。人民銀行が2014年から法定デジタル通貨の可能性を検討していたことは知られているし、「その準備ができた」と当局者が漏らしていることも知られていたが、日付まで報じられたのは始めてだ。

 しかも、人民銀行の計画としては初期段階では少なくとも7つの機構と四大銀行が自己のデジタル通貨を発行するという。その7つの機構にはアリババ、テンセント、銀聯カードでおなじみの中国銀聯が含まれるという。

 フォーブスのネタ元2人のうち1人は人民銀行内部でデジタル通貨・暗号通貨の研究開発に従事している人間で、もう1人はデジタル通貨発行元の7機構のうちのどこかの元関係者で、現在フリーの研究者ということなので、かなり信頼できる情報といえる。

 このタイミングでのリークは、おそらくフェイスブックが6月に1年以内に発行すると発表した暗号通貨「リブラ」への対抗意識と、中国の法定デジタル通貨への国際世論の反応温度を見ようという観測気球ではないかと思われる。11月11日という時期とアリババやテンセントなど7機関が発行できるといった情報については「信用できない」という人民銀行筋のコメントを中国の一部メディアが報じている。

 フォーブスによれば、人民銀行は法定デジタル通貨を西側国家との銀行の間でも取り引きし、最終的には米国や他の地域でも使用できるようにしたい、といっているという。