日本の大学に急速に普及しつつある「教学IR」。期待通りの成果は上げられるのだろうか?

(児美川 孝一郎:教育学者、法政大学キャリアデザイン学部教授)

 前回の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55043)では、近年、日本の大学において「IR(Institutional Research)」が急速に普及・浸透しつつあること、それが促されたのは、各大学による自主的な動きの結果というよりは、補助金を含む文科省による政策的誘導の結果であったこと、それゆえに、日本型IRは、経営戦略の策定や財務分析などに活用されるというよりは、「教学IR」を中心に発展しつつあることについて述べた。

 今回は、こうした日本型IRのゆくえについて、それが、はたして今後の大学改革を促進し、期待される成果を上げていくのかどうかについて考えてみたい。

教学IRは何をするのか

 議論を分かりやすくするために、まずは、教学IRとはどんなものか、教学IRにできることは何なのかについて説明しておこう。

 教学IRとは、端的に、学内にある諸々のデータを収集・分析し、その結果を教学の改革や改善のための施策に生かす活動である(施策の実施後に検証を行って、PDCAサイクルを回すことも含む)。実際には、IR分析者は、教学の改革・改善を示すことになる指標(データ)を特定して、それを従属変数(目的)とし、学内にある諸々のデータを独立変数(要因)として、両者の因果関係を探るという作業に従事することになる。

 少々単純化された説明になるが、具体的な例を見てみよう。

 どこの大学でも、現在は、多様な入試経路から入学者を受け入れており、入学者の出身高校のタイプ(学科、所在地、偏差値ランクなど)も多様である。そこで、4年間の成績(累積GPA)が上位となることを目的(従属変数)とし、そこに影響を与えている可能性のある要因(独立変数)として、入試経路や出身高校のタイプの違いを設定して分析を行った結果、ある特定の入試経路や特定のタイプの出身高校からの入学者は、その後の成績が有意に高いという因果関係が確定できたとする。