蘇州の街並み

 上海市に隣接する江蘇省蘇州市は、日本を含め世界の製造業企業が集まる中国第2の工業地帯だ。1990年代から国内外のメーカーが工場を建設してサプライチェーンを構築し、蘇州市は中国の不動の生産拠点となった。

 だが2010年を過ぎる頃から生産拠点としての魅力が低下し、日系企業が撤退し始める。

 賃金高騰、ストライキ、工場閉鎖――。中国では2008年から労働者を保護する労働契約法が施行され、2010年以降は反日ムードが強まった。「チャイナプラスワン」の風潮も高まり、日系企業の東南アジアシフトが加速。2014年前後になると、蘇州のみならず沿海部の工業都市で日系工場の撤退が相次いだ。

 もちろん、それでも操業を続ける日系工場はあった。「中国事業はまだまだ伸びる」「撤退するにはまだ早い」として粘る企業も少なくなかった。

 しかし、今思えば2014年の撤退劇はほんの序章に過ぎなかったのかもしれない。現在、蘇州の工業地帯では、まるで追い出されるかのように撤退ラッシュの第2ラウンドが始まっている。

蘇州の工業団地は「スカスカな状態」

 筆者はある日本人経営者と面会した。蘇州市に工場を構え、20年にわたって自動車部品を製造してきた杉田健一さん(仮名)だ。杉田さんは開口一番、こう切り出した。