バングラデシュのグラミン・コミュニケーションズの社員たち。同社は、ムハマド・ユヌス氏が貧困対策として設立したグラミン銀行グループのIT分野を担う(筆者撮影)

 世界的なIT人材不足が叫ばれる中、日本企業もグローバルな人材調達が迫られるようになった。日本では、2030年に59万人のIT人材が不足すると言われている。

 人材の調達先としてベトナムやフィリピンなど東南アジアに注目が集まっている。だが、今や南アジアにも視野を広げなければ人材獲得競争から脱落してしまう時代になった。南アジアで最もポテンシャルが高いといわれるのが、バングラデシュの人材だ。バングラデシュでは、IT人材を育成しようと政府主導で「デジタルバングラデシュ」を進めている。

「日本では毎年70万人の労働人口が減っていますが、バングラデシュでは毎年140万人増えています。労働力不足に悩む日本と雇用不足に悩むバングラデシュは、最も補完し合える関係なのです」と、国際協力機構(JICA)南アジア部の弓削泰彦氏は語る。JICAは目下、日本市場をターゲットとしたIT人材育成プロジェクトを推し進めている。

中国企業が5Gイベントを開催

 しかし、南アジアに対する“勘”が働かない日本企業の腰は重い。首都ダッカに在住する綿貫芳樹さん(仮名)は、次のような危機感を抱く。

「このままでは親日人材も含めてバングラデシュの優秀な人材を根こそぎ中国に持っていかれてしまう」

「一帯一路」構想を進める中国は、バングラデシュとのパートナーシップ構築に積極的だ。習近平国家主席は2016年に同国を訪問し、繰り返し「フレンドシップ」という言葉を使った。現地の日本人の間では、「ダッカの日本人殺害事件(当コラム2016年7月12日付に詳細)で往来を控えた日本の隙をついて、中国がアピールを強めた」とも言われている。